「はぁ、はぁ、はぁ……クソっ……!」

 魔獣の群れの討伐クエストを終えた勇者アルドリッジは、疲労困憊から肩で大きく息をしていた。

「アルドリッジ、大丈夫?」

 そう言ってアンジュが差し出してきた水筒を勇者は半ば奪いとるように掴み取ると、ごくごくと乾いたのどを潤していく。

 しかし水でのどは潤っても、イライラでささくれだった心は全くおさまる気配を見せなかった。

「クソが……どいつもこいつも使えないゴミどもめ……」

 勇者の口からいら立ちを隠し切れないままに悪態がこぼれ出る。
 もちろん勇者がここまでイラつくのには訳があった。

 今までならなんてことはないA+ランクのクエストに、こうまで大苦戦をさせられたからだ。

 シャーリーたちが抜けたのを穴埋めするために急きょ雇い入れた新メンバーたちは、どいつもこいつもてんで使い物にならなかった。

 どうしようもないカスばかり。
 足を引っ張るだけで、これならいない方がマシだった。

「お前らに次はない、今回の報奨金を貰ったらとっと失せろ」

 勇者は新メンバーたちに短く言い捨てると、帰りの馬車に向かって歩き出した。
 アンジュがその半歩後ろを付き従うようについていく。

「クソが……そもそもシャーリーが抜けなければこんなことにはならなかったんだ。いい女だからってどこまでも調子に乗って、このボクをバカにしやがって……」

 勇者はアンジュに聞かせるでもなく、ただただ心のいら立ちをそのまま言葉に発していく。

 戦闘が開始してすぐに、強力な光魔法で全体を範囲攻撃して雑魚を薙ぎ払う「ファースト・ストライク」の役目を担うシャーリー。

 このド派手な先制攻撃が無くなったせいで、全ての敵を一から相手にしなければならなくなったのだ。
 その負担が想像以上に大きかった。

 加えてもう一人、前衛で盾役(タンク)をやっていたバーサーカーが抜けたのも地味に痛かった。

 超常的な回復スキルを持つバーサーカー。
 それがダメージを引き受けつつ縦横無尽に前線で暴れまわることで敵を分断し、勇者とアンジュが残りを各個撃破する。

「ボクが作り上げた必勝の戦術さえ使えれば、こんなクエストはいとも簡単に完了できるっていうのに……! 勝手に抜けたシャーリーも、ろくにサポートすらできない使えないゴミどもも! 本当に不愉快なんだよ!」

 全員がレベル100を超える超ハイレベルな勇者パーティについてこれる冒険者はほとんどいない。
 今回のメンバーもどうにか使えそうな冒険者をピックアップしたものの、それでもこのざまときた。

 圧倒的な強パーティとはその強さゆえに、メンバーを補充するのもままらないのだった。

「ねぇアルドリッジ。このままじゃ早晩立ちいかなくなるわ。ケースケを探し出して、シャーリーたちに戻ってきてもらわない?」

「ケースケは行方不明だろう。シャーリーが手を尽くして探していたのはお前も知っているはずだ。どれだけ探しても、宿で別れた以降の消息がどうしても掴めなくて諦めたんだぞ? 今さらどうやって探しだせっていうんだ」

「南部諸国連合の評議会に頼めば力を貸してくれるんじゃ――」

「ボクに頭を下げろって言うのか? ケースケなんかを探すために、このボクに評議会に頭を下げてお願いしろって言うのかよ!」

「ご、ごめんなさい……」

「チッ……分かればいいんだよ分かれば。お前の物分かりのいいところを俺は割と嫌いじゃないからな」

 それに頭を下げないといけないのは、評議会にだけでは済まないだろう。

 仮に探し出すことができたとしても、ケースケは簡単には勇者パーティには戻らないはずだ。
 負け犬のゴミカスバッファーの分際で、ひどい逆恨みをして謝罪なりなんなりを求めてくるはずだ。

 名声高き勇者アルドリッジが、ゴミカス屑底辺職のバッファー・ケースケごときに頭を下げるなど、耐えがたい屈辱だ。

「勇者パーティは当面このままでいく。なーに、ボクとアンジュはどちらもレベル130だ、やってやれないことはない。そうだろう?」

「そうね、うん、私もそう思う」

 そうだ、やってやれないことはない。

 誉れ高き勇者アルドリッジの辞書に、不可能という文字など存在しないのだから――!