「ははっ、ありがとうなアイセル。その気持ちは本当に嬉しいよ」

「わたしはほんとの本気です」

「でもさ、若いうちは俺みたいなダメ男にくっついてないで、色々と世の中を見ておいたほうが視野が広くなっていいと思うぞ? って、アイセルを手放したくない俺が言うのもなんだけどな」

「それなら大丈夫です。見たことがない世界ならきっとケースケ様がいっぱい見せてくれますから。だからわたしはケースケ様を通して色んな世界を見ていきたいと思ってます。ううん、ケースケ様に見せて欲しいんです」

「そ、そうか……うん。そこまで言われると、俺もパーティのリーダーとして責任重大だな。あと死ぬまでとかなかなかに重い言葉だな。一歩間違えると刺されそうだ」

「酷いです!? 刺したりなんかしませんよ! それにわたしはケースケ様に本気なんです、本気で好きなんですもん。気持ちは伝えてなんぼですから、むしろ重すぎるくらいでちょうどいいのではないかと!」

「いつもは割と自己主張は控えめなのに、今日のアイセルはぐいぐい来るな……なんだか土俵際にまで追い詰められている気分だ……」

「これをチャンスと追い詰めてってますから!」

「そ、そうか……意図的だったか……」

「はいっ♪ 戦いは勢いが大事ですので!」

 押せ押せゴーゴーのアイセルを前にたじたじになる俺だった。

「ま、まぁそういうわけでさ? もちろんそれだけじゃないんだろうけど、アンジュは俺を捨てて勇者を選んだんだ。そして俺は勇者と結合して乱れるアンジュの姿を見せられて心がぽっきり折れた。辛くて悲しくて――そしてそのまま3年以上もヒキコモリになったんだ」

「ヒキコモリ……ですか?」
 アイセルがこてんと可愛らしく小首をかしげた。

「俺とアイセルが初めて会った日のことを覚えてるか?」

「もちろん覚えてますよ。だってケースケ様と出会えたおかげで、今のわたしがあるんですから。忘れるはずなんてありません」

「実はあの時がさ、俺が3年ぶりに外の世界に出た日だったんだ」

「えええぇぇっっ!? 3年ぶりに外に出たんですか!? だってケースケ様は、『暴虐の火炎龍フレイムドラゴン』を討伐した栄光ある勇者パーティの元メンバーですよね!?」

 アイセルが驚いだ声をあげる。

 今日一番の驚きっぷりは、まるで高額賞金が常時かけられている幻の珍獣ツチノコを、近所の田んぼか畑で見つけたみたいな驚きようだった。

 ま、俺への好感度がマックスなアイセルも、元勇者パーティのメンバーがヒキコモリにまで転落していた話には驚かざるを得なかったか。

「俺は最初、アイセルのことを疑ってただろ?」

「あ、はい。なんだか少し警戒されてるなーって感じました」

「あれはさ、あまりにタイミングが良すぎたから、思わず裏があるって勘繰っちゃったんだよ。考えても見ろ、3年ぶりに外に出たタイミングで声をかけられたんだぞ?」

「あ、だからあの時のケースケ様は、あんなに警戒してたんですね。納得です」

「しかしほんと笑えるよな。使えない後衛不遇職の上に、結婚の約束をした幼馴染を寝取られたあげく、それが理由でインポになってしかもヒキコモリになるなんて」

「いえあの、ぜんぜん笑えないですよ……」

「ま、そういうわけでさ。俺の身体がアイセルに全く無反応だったのはインポだったからであって、だから決してアイセルに魅力がないとかそう言うんじゃないから、そこは安心してくれ。っていうか俺的には、むしろアイセルはすごく魅力的な女の子だと思ってるぞ?」

「え!? えっとあの、それは本当ですか……?」

 アイセルが上目づかいに見上げながら尋ねてくる。

「もちろんだとも、俺はあまり女の子におべっかは使わない方だ。アイセルはとても素敵な女の子だよ」

「じゃ、じゃあもし! もしもですよ? ケースケ様がインポじゃなかったら、さっきので男女の関係になってたかもしれないってことですか?」

「そうだな、仮定の話にはなるけど、もし俺に過去の諸々がなくてインポでもなくて完全フリーだったらそうなったかもな。というか、なっただろうな」

 えっちなネグリジェを着て迫ってくるアイセルの魅力に、普通の男は耐えられないだろう。

 そして俺は普通の――普通以下の寝取られ男なんだから。
 アイセルの魅力に耐えきれるとはとても思えない。

「そっかぁ……ケースケ様はわたしのことを、ちゃんと女の子だって見てくれてたんだ……」

「当然だろ? アイセルはもっと女の子として自信を持っていいと思うぞ」

「自信……」

「ああ、アイセルはどこに出しても恥ずかしくない、とても魅力的で素敵な女の子だよ」

「ケースケ様……」

 俺がそう言うと、アイセルが少し考えるようにうつむいた。

 そしてすぐに結論が出たのか顔を上げると、決意のまなざしと共に言った。

「……わたし、決めました」

「ん? 決めたって何をだ?」

「わたしはこれまでも、そしてこれからも、ずっとケースケ様のお側にいます。そしていつの日かアンジュさんを越えてケースケ様の一番になってみせます」