「えへへ、落ち着いてくれて良かったです。昔、お祖母ちゃんがセキをした時とか、こうやって背中をさすってあげたんですよ。そしたらお祖母ちゃんはいつも、元気になったよ、もう大丈夫だよって言ってくれて」

「そっか……アイセルは昔から優しい子だったんだな。えらいぞ」

「えへへ、ケースケ様に褒められちゃいました」

 アイセルはそこで少し言葉を切ると、わずかなためらいを飲みこみながら意を決したように言葉を続けた。

「ケースケ様、さっきは出過ぎた真似をしてしまい申し訳ありませんでした。どうしても好きって気持ちが抑えられなかったんです。でも強引に迫ったせいで、ケースケ様をすごく不愉快な気持ちにさせてしまいました……」

「いや、アイセルが謝ることじゃないから」

「それにケースケ様は大人の男性ですもんね……わたしみたいな子供じゃあ、興奮とかされないですよね、えへへ」

「そういうわけでもないんだよ。本当にアイセルは何も悪くないんだ」

「いえ、気を使っていただかなくて大丈夫ですから、えへ、えへえへ……えへ……」

「ああもう泣くなって。せっかくの可愛い顔が台無しだぞ」

「すみません……わたし、最近何でも上手くいってるから調子に乗り過ぎちゃって……それでこんな馬鹿なことをしちゃったんです……」

「だから言ってるだろ。アイセルが悪いんじゃない、悪いのは全部俺なんだから」

「そんな、ケースケ様が悪いわけないじゃないですか。悪いのはどう考えたって、強引に迫ったわたしです」

 俺がどれだけ言ってもアイセルは自分が悪いと言って聞かなかった。
 このままだと一生残る心の傷をつけてしまうかもしれない。

 あの日、勇者と結合するアンジュを見て俺の心が粉々に壊れてしまったように――。

 だから俺は行動しようと思った。

 バッファーなんて超不遇職で、幼馴染を寝取られてヒキコモったこんなどうしようもない俺でも、真実を伝えて誤解を解くことくらいはできるはずだから。

 大切なパーティのメンバーであるアイセルの心を守るために、俺は全てを打ち明ける覚悟を決めた。

「アイセルも理由がわからないと、本音のところでは納得できないと思うんだ。だから今からそのあたりのことを全部説明しようと思う。俺が性的に興奮しなかったことも、勇者パーティじゃなくなったことも、今から全部アイセルに話す」

 俺はそう言うと、アイセルの頭を俺の胸へと抱きかかえた。

「はわっ!? えっとあの、ケ、ケースケ様?」

 突然抱き抱えられたアイセルがテンパった裏声をあげる。

「いやその、なんだ。これから話すことはほんと情けなすぎてさ。アイセルの顔を見てるとちょっと話しづらいんだよ。だから少しだけこうさせてくれないかな?」

「それはもちろん構いませんけど……でもあの、言いにくいことでしたら無理に言う必要は――」

「いや、アイセルには全部聞いてもらいたいんだ。俺のダメなところをさんざん見られたアイセルになら、もう少しくらい情けないところを見せても、愛想をつかされたりはしないかなって思ってさ」

「そんな! わたしはケースケ様に愛想を尽かしたりなんて絶対にしません! わたしがバカやったりして、逆はあるかもですけど……」

「俺こそ、アイセルみたいないい子に愛想をつかすことなんてないよ。そこはまぁ安心してくれ。アイセルが思っている以上に、俺はアイセルのことを大切に思ってるんだぞ?」

「ケースケ様がわたしのことを大切に……えへへ、ありがとうございます。ケースケ様がそう言うのなら、はい、信じます」

「ありがとうアイセル。俺もアイセルに信じてもらえて嬉しいよ」

 言いながら俺はアイセルの髪をそっと撫でた。

「えへへ――っ」

 アイセルがくすぐったそうに小さく身を震わせる。

 抱き寄せたアイセルの頭をしばらくそっと撫でてから、その柔らかい感触に浸ってから。
 俺はズバリ結論を言った。

「アイセル。俺はさ、メンタル・インポテンツ――心因性の勃起不能なんだ」