なぁアンジュ。
なんで俺じゃあダメだったんだ?
最初の頃は俺のバフスキルのおかげで格上の相手とも楽に戦えるって、喜んでくれたじゃないか。
『ケースケがいてくれるおかげだよ、ありがとう』って嬉しそうに言ってくれたじゃないか。
「なのになんでなんだよ!」
「け、ケースケ様? 急にどうしたんですか?」
アイセルが何か言っていたけど、自分のことでいっぱいいっぱいな今の俺の耳にはほとんど届いていなかった。
なぁアンジュ、俺が不遇職のバッファーだったからか?
優遇職の魔法戦士であるアンジュにとって、途中からはバフスキルなんて必要なかったからか?
それとも勇者の方が細マッチョのイケメンで巨根で絶倫だったからか?
俺がクサヤ・スカンクを使うたびに悪臭に包まれていたからか?
「なんで、なんで、なんで――!」
ぎゅっと目をつぶっても、頭の中では勇者がアンジュの中でブルリと果てる光景が、何度も何度も繰り返されるばかりで。
嵐の日の風車のように、思考がグルグルと同じところを高速で回り続ける。
「もう俺は嫌なんだよ! あんな思いをすることだけはもう嫌なんだよ――! 俺はもう、裏切られるのは嫌なんだよ!」
俺は癇癪を起こした子供のように泣いてわめきながら、慟哭の叫びをあげた。
「ケースケ様、少し落ち着きましょう、ね、ねね?」
アイセルのそっといたわるような優しい声は、しかし俺の心にはわずかも響かなかった。
俺の顔を覗き込んでくるアイセルを直視できなくて、俺は逃げるように目を背ける。
結局、俺はあれから何も変わっていなかったのだ。
そりゃあそうだろう。
ヒキコモリをすることでただただ現実から目を背けてきた敗北者の俺に、変わりようなどあるはずがないのだから――。
元・勇者パーティのメンバーだとアイセルに持ち上げられても、実際の俺は今もあの時となんら変わらず、惨めで無様な寝取られバッファーのままなのだから。
アイセルに――10才も年が離れたたった1人のパーティのメンバー相手にこんな醜態をさらけ出してしまうような、情けないだけの無価値男なのだから――。
「そうだよな……アイセルだって恥ずかしいまでに哀れでみすぼらしい俺の姿を、こうやって間近で見せられたんだ。ははっ、俺への好意や情熱もすっかり薄れたよな」
「そんなことありません! ケースケ様はいつだってどこだって、今だって最高にステキなままです!」
「気を使わなくたっていいんだよ。そうでなくたってアイセルはエルフの魔法戦士なんだ。そう遠くないうちに俺のバフスキルなんて必要がなくなるんだ。遠からず俺はお払い箱になる」
「そんなことわたし、しませんもん!」
「まぁそれならそれで別にいいんだ。そうさ、もうどうだっていいんだ。どうだって、どうだっていいんだよ――」
言い捨てるように投げやりに言いながら俺は頭を抑えた。
気分が悪い。
頭がガンガンする。
酸っぱい胃液が喉の奥から込み上げてきて今にも吐きそうだ。
呼吸が荒くて、なにより心が惨めで空しくて、そしてなにもかもがしんどかった。
頬を濡らすのは涙だ。
25歳にもなるいい年した男が、目を真っ赤に腫らして泣いているのだからほんと笑えない。
俺はどうしようもないゴミクズだった。
そのことが改めてよく分かった。
あの日のトラウマを思い出してしまった俺は、もう完全に自暴自棄になっていた。
すると――、
「うう、わたし、えっと、どうすれば――って、そうです、こういう時は!」
急に喚き散らした俺を前にテンパりかけていたアイセルが、急にポンと手を叩くと俺の背中を優しくさすりはじめたのだ。
優しい温もりが俺の背中を慈しむように上下する。
そしてアイセルは呪文を唱えた。
「痛いの痛いの飛んでいけ~。遠いお空に飛んでいけ~」
って。
それはよくある子供だましのおまじないだった。
「痛いの痛いの飛んでいけ~。お山の向こうに飛んでいけ~」
俺の背中を優しくさすりながら、アイセルは一生懸命におまじないの言葉を紡ぐのだ。
「痛いの痛いの飛んでいけ~」
それは子供だましの、何の特別な効果も持たないただのおまじない。
物理的にはなんの効果もない。
だけど不思議と胸に染み入るように、その言葉に込められたアイセルの優しい想いとともに俺の中にすとんと入ってきて。
想いの結晶となって俺の心に染み入ってきて――。
「はぁ……ふぅ……はぁ、ふぅ。……うん、少し落ち着いた」
自分でも信じられないくらいにあっさりと、俺の心は平常を取り戻していた。
なんで俺じゃあダメだったんだ?
最初の頃は俺のバフスキルのおかげで格上の相手とも楽に戦えるって、喜んでくれたじゃないか。
『ケースケがいてくれるおかげだよ、ありがとう』って嬉しそうに言ってくれたじゃないか。
「なのになんでなんだよ!」
「け、ケースケ様? 急にどうしたんですか?」
アイセルが何か言っていたけど、自分のことでいっぱいいっぱいな今の俺の耳にはほとんど届いていなかった。
なぁアンジュ、俺が不遇職のバッファーだったからか?
優遇職の魔法戦士であるアンジュにとって、途中からはバフスキルなんて必要なかったからか?
それとも勇者の方が細マッチョのイケメンで巨根で絶倫だったからか?
俺がクサヤ・スカンクを使うたびに悪臭に包まれていたからか?
「なんで、なんで、なんで――!」
ぎゅっと目をつぶっても、頭の中では勇者がアンジュの中でブルリと果てる光景が、何度も何度も繰り返されるばかりで。
嵐の日の風車のように、思考がグルグルと同じところを高速で回り続ける。
「もう俺は嫌なんだよ! あんな思いをすることだけはもう嫌なんだよ――! 俺はもう、裏切られるのは嫌なんだよ!」
俺は癇癪を起こした子供のように泣いてわめきながら、慟哭の叫びをあげた。
「ケースケ様、少し落ち着きましょう、ね、ねね?」
アイセルのそっといたわるような優しい声は、しかし俺の心にはわずかも響かなかった。
俺の顔を覗き込んでくるアイセルを直視できなくて、俺は逃げるように目を背ける。
結局、俺はあれから何も変わっていなかったのだ。
そりゃあそうだろう。
ヒキコモリをすることでただただ現実から目を背けてきた敗北者の俺に、変わりようなどあるはずがないのだから――。
元・勇者パーティのメンバーだとアイセルに持ち上げられても、実際の俺は今もあの時となんら変わらず、惨めで無様な寝取られバッファーのままなのだから。
アイセルに――10才も年が離れたたった1人のパーティのメンバー相手にこんな醜態をさらけ出してしまうような、情けないだけの無価値男なのだから――。
「そうだよな……アイセルだって恥ずかしいまでに哀れでみすぼらしい俺の姿を、こうやって間近で見せられたんだ。ははっ、俺への好意や情熱もすっかり薄れたよな」
「そんなことありません! ケースケ様はいつだってどこだって、今だって最高にステキなままです!」
「気を使わなくたっていいんだよ。そうでなくたってアイセルはエルフの魔法戦士なんだ。そう遠くないうちに俺のバフスキルなんて必要がなくなるんだ。遠からず俺はお払い箱になる」
「そんなことわたし、しませんもん!」
「まぁそれならそれで別にいいんだ。そうさ、もうどうだっていいんだ。どうだって、どうだっていいんだよ――」
言い捨てるように投げやりに言いながら俺は頭を抑えた。
気分が悪い。
頭がガンガンする。
酸っぱい胃液が喉の奥から込み上げてきて今にも吐きそうだ。
呼吸が荒くて、なにより心が惨めで空しくて、そしてなにもかもがしんどかった。
頬を濡らすのは涙だ。
25歳にもなるいい年した男が、目を真っ赤に腫らして泣いているのだからほんと笑えない。
俺はどうしようもないゴミクズだった。
そのことが改めてよく分かった。
あの日のトラウマを思い出してしまった俺は、もう完全に自暴自棄になっていた。
すると――、
「うう、わたし、えっと、どうすれば――って、そうです、こういう時は!」
急に喚き散らした俺を前にテンパりかけていたアイセルが、急にポンと手を叩くと俺の背中を優しくさすりはじめたのだ。
優しい温もりが俺の背中を慈しむように上下する。
そしてアイセルは呪文を唱えた。
「痛いの痛いの飛んでいけ~。遠いお空に飛んでいけ~」
って。
それはよくある子供だましのおまじないだった。
「痛いの痛いの飛んでいけ~。お山の向こうに飛んでいけ~」
俺の背中を優しくさすりながら、アイセルは一生懸命におまじないの言葉を紡ぐのだ。
「痛いの痛いの飛んでいけ~」
それは子供だましの、何の特別な効果も持たないただのおまじない。
物理的にはなんの効果もない。
だけど不思議と胸に染み入るように、その言葉に込められたアイセルの優しい想いとともに俺の中にすとんと入ってきて。
想いの結晶となって俺の心に染み入ってきて――。
「はぁ……ふぅ……はぁ、ふぅ。……うん、少し落ち着いた」
自分でも信じられないくらいにあっさりと、俺の心は平常を取り戻していた。