アイセルは色んなことをやってきた。
 だけど俺の身体は、アイセルにナニをどうされても全くの無反応のままで。

 アイセルはしばらく懸命な愛撫を続けてから――いい加減どうしようもなくなって。
 最後は諦めてうつむいたまま、俺のパンツの中から手を引き抜きぬいた。

「すみま……せんでした……。わたし、勝手なことをしてしまって……」

 そして涙声でそう言うと、アイセルはそのままうなだれるように下を向いた。

 鼻をすすって懸命に涙をこらえている。

 その気持ちはよくわかる。
 えっちなネグリジェを着て、ベッドの上で胸を押し付けながら前戯に及んで。

 これだけ直接的に迫ったというのに、俺の身体はアイセルの行為と好意にピクリとも反応しなかったのだから。

「そう、ですよね……わたしなんかにこんなことされてもケースケ様はぜんぜん嬉しくなんかないですよね……全然気持ちよくなんて、ならないですよね……」

「……」

「ごめんなさい、勝手なことをしてしまって……」

 涙を必死にこらえながらアイセルが俺に謝罪をする。

 俺が全くの無反応だったことで、女の子としての魅力が自分にはないのだと感じて、アイセルはショックを受けたことだろう。

「そういうわけじゃないんだ」

「いいえ……気を使っていただかなくても大丈夫ですから、えへ、えへへ……」

 俺の言葉にアイセルは少しだけ顔を上げると、泣き笑いのような顔を見せた。

 だけど本当にそうじゃないんだ。
 だって俺が()たなかった原因はアイセルには全くないのだから――。

 そう。
 これはただただ俺自身の問題だった。

 アイセルに性的に迫られている間、俺の頭の中にはアンジュが勇者と結合している光景が鮮明に思い出されていたのだから――。

 アイセルとの冒険が楽しくて。
 アイセルの成長を見るのが嬉しくて。

 だからここ最近はめっきり思い出すことが減っていた、あの日の出来事。

 勇者に一突きされて(とろ)けるような表情で甘い声をあげるアンジュの姿が。
 熱いモノをアンジュに注ぎ込む、そのオスとしての最高の快楽にブルリと身を震わせる勇者の姿が。

 何度も何度もなんどもなんども、何度もなんどもナンドモナンドモ、俺の頭の中でリピートされているんだ──。

 あぐ……っ、だめだ。

 考えれば考えるほど明瞭に思い出されるあの夜のトラウマに、身体が震えて目眩がして、目の前がくらくらしてくる――。

「うっ――かはっ」

 ついには猛烈な吐き気が込み上げてきて、俺は思わず口元を覆っていた。

「ケースケ様っ!? えっと、あの、どうされましたか!?」

 突然苦しみだした俺を見てアイセルがあたふたし始めた。
 だけど今の俺は自分のことで手一杯で、取り繕う余裕すらなくて。

 アンジュ、なんで?
 アンジュ、なんでだよ?

 なんで、なんで、なんで、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで――――っ!

「あぐっ……あがっ、はぁっ、はぁっ、う……」

 マグマが噴火したかのように不快感が激しく吹き上げてくる。
 堪えきれなくなった俺は、ビクッ!ビクビクッ!とついには身体を小刻みに震わせてしまっていた。

「ケースケ様、呼吸が乱れてすごく顔色が悪いです――!」

 突然激しく苦しみだした俺を見てアイセルが慌てた声をあげる。

「あ、ぐ……はぁはぁ……うぐ、うっ……」

 勇者と結合するアンジュを呆然と見つめていた、あの時の惨めすぎる自分の姿。
 アンジュの蕩けるような表情。
 勇者の見下したような目。

 それらを思い返すだけで、俺は心が2つに張り裂けてしまいそうになるんだ――!

 俺は本当にアンジュを愛していたのに――。
 アンジュと一緒ならなんだってできるって信じていたのに――。

 バッファーなんて超不遇職でも、誰になんと思われようともアンジュと一緒ならいくらでも頑張れたのに――。

 なのになんでおまえは、勇者に突かれてあんなに気持ちよさそうな声をあげてたんだよ――!