「えーっとアイセル、どうしたんだ……?」

 俺が尋ねても、

「えへ、えへへ……」

 相変わらず要領を得ない作り笑いで言葉を濁すだけのアイセル。

 月明かりが窓からそっとさし込むだけの、銀色に彩られた小さな宿の一室で。
 俺とアイセルはベッドに二人並んで座っている。

 もし俺が普通の男だったらこの時点で下半身を月に向かっておったてて、獣のごとく本能のおもむくままにアイセルに襲いかかっていたことだろう。

 アイセルは顔も可愛いし、押し付けられている胸もかなりの大きさだ。
 性格も素直な頑張りやさんで、なにより笑顔がすごく素敵な女の子なんだから。

 そんなどこに出しても恥ずかしくない魅力的な女の子であるアイセルが、月明かりだけがさし込む部屋でエロいネグリジェを着て誘ってきたら、そりゃたいていの男は狼にフォームチェンジしてしまうだろう。

 けど――俺はそうはならなかった。

「えっと、アイセル……? ほんとにどうしたんだ? っていうか近くないか?」

 俺は興奮の欠片も見せることなく、極めて冷静なままでアイセルに問いかけた。

「だってわたしとケースケ様は2人きりのパーティのメンバーなんですもん。これくらい普通ですよ」

「うーん、それはどうなんだろうな? 親しき中にも礼儀ありって言うか? まぁそれは今はいいや。じゃあ次の質問、なんで明かりを消したんだ?」

 暗視スキルを持つアイセルと違って、俺は暗がりだと見づらいわけで。
 細かい表情とかもよく見えないし、話をするのなら明るい方が断然いい。

 すると、

「わたし、ケースケ様にお礼をしたいんです……へっぽこだったわたしを拾って面倒を見て育ててくれたケースケ様に、恩返しがしたいんです……」

 アイセルははにかみながらそんなことを言ってきた。

「うーん……アイセルの気持ちはありがたいんけど、それと明かりを消すことに何の関係が――」

「もう、ケースケ様は普段は気が利いて優しいのに、こういう時は意地悪なんですね! だからあの、わたしを……」

「アイセルを?」

「わ、わたしをケースケ様の女にしてください!」

 アイセルは目をつぶって言いながら、自分の胸を俺の腕へさらにぎゅっと押し付けてきた。

 弾力と柔らさが両立した形のいいふくらみが、俺の二の腕を挟んで包みこんできて――。

 得も言われぬ極上の感触を前に、だけど俺は、

「……それはできない。俺たちはパーティの仲間だろ」

 優しく小さな声で諭すようにそう答えたのだった。

「ですがパーティのメンバー同士で男女の関係になることは少なくないと、聞きました」

「まぁ……そう、かもな……」

 良いことも悪いことも、楽しいことも苦しいことも分かち合い、時には生死すら共にするのがパーティのメンバーだ。

 その過程で愛情が育まれるのは不思議なことでもなんでもない。
 だからそれはまったく不思議なことじゃないんだ――。

「――でしたらわたしに恩返しをさせてはもらえませんか? わたしはケースケ様に喜んでもらいたいんです」

「安心しろアイセル。俺はアイセルと一緒に冒険をできて、十分に楽しいし嬉しいよ」

 アイセルを見ていると10年前、冒険者になったばかりの頃の自分を見てるみたいで、俺はそんなアイセルをいくらでも応援してあげたくなるんだから。

「えへへ、そう言っていただけると嬉しいです」

「なら――」

「でもそれと同時に。パーティのメンバーという関係からもう少しだけケースケ様の方に行けたらいいなって、最近は思うようになったんです」

「それってどういう――」

「わたし、ケースケ様のことが好きです。大好きなんです」

 突然の告白は小さな声でおずおずと控えめに。
 だけど強い思いが込められたものだった。

 そしてアイセルの手は、覚悟を決めたように俺のパンツの中に強引に不法侵入してくると、太ももの付け根や局部をやわやわさわさわとまさぐりだしたのだ。

 止めようとしても、後衛不遇職のバッファーの筋力では最優遇職のエルフの魔法戦士にはとても(かな)いはしない。

「アイセル、やめてくれ……俺はそんなつもりでアイセルとパーティを組んだわけじゃないんだ」

「いいえ、やめません……だってわたしはケースケ様に恩返しをしたいんです。ケースケ様のことが好きで好きで大好きで。施されるだけじゃなくて、どんなことでもいいからなにかお返しをしたいんです」

 吐息のような切ない声が俺の耳元に吹きかけられる。

「それがこれってことか――」