そんなある日。

「ついに来たぞ、アイセル」

「はい、ついに来ましたね……!」

「ああ、キングウルフの討伐クエストだ――!」

 冒険者ギルドの受付広間に大々的に張り出されたクエスト依頼書を見て、俺とアイセルは頷きあった。

 参加資格はBランク以上のパーティ。

 キングウルフが単独でBランク、群れになるとAランクに分類される魔獣だからまぁそんなところだろう。
 このクラスの魔獣を相手にするのに、低ランクパーティは足手まといにしかならないからな。

「いくつかのパーティは協力して参加するみたいですね」

「今回は大きな群れが複数出没してるからな。普通にやるならある程度、数を揃えたほうがいいだろうな」

 すでに旧知のパーティ同士で話し合いを始めている姿がいくつも確認できた。

「じゃ、じゃあわたしたちも早く一緒にクエストを攻略するパーティを探さないといけません!」

 それを聞いたアイセルが慌てたようにギルド内を見回す。

「いや俺たちパーティ『アルケイン』は単独でやる」

「ふぇぇっ!? で、でも『アルケイン』はわたしたち2人だけですよ?」

「俺は戦力外だから実質はアイセルのソロだけどな。そう言うわけで頼んだぞ、絶対エース」

「いやあの、ですが……」

「まぁ待てアイセル、考えても見ろ。今の俺たちに腹を割って話せるやつはいるか?」

「えっと、いませんけど……」

「パーティ同士が協力するにはある程度の信頼関係が必要だろ? 互いに命を預けるわけだし」

「は、はい」

「よく見てみろ。今、作戦会議中のパーティは既にそれができている所ばかりだ」

「あ、確かに……他のパーティ同士なのに皆さん最初から仲が良さそうです」

 一緒のテーブルでわいわい食事をしながらどの群れを狙うか、いつから動くか、そういった攻略の計画を練っている姿は、まるで一つのパーティであるかのようで。

「逆に今から急造でくっついたところで、プラスになるどころか下手したらマイナスになりかねない。これじゃ勝てるものも勝てなくなる、連携も何もないただの烏合の衆だからな」

「ですが、わたしたちだけではさすがに――」
「アイセルは今いくつになった?」

「えっと、15才ですけど」
「あ、いや年齢じゃなくてレベルな」

「はぅ、すみません……えっと、レベルは29になってます」

 アイセルが下を向いて顔を赤くしながら言った。
 子猫が縮こまってるみたいで、ちょっと可愛いな。

「そうだ。アイセルはもうどこに出しても恥ずかしくない、レベル29のエルフの魔法戦士だ。知ってるだろ、レベル30を越えれば誰もが認める一人前の冒険者なんだ」

 アイセルはもうその寸前まで来ているのだ。

「それはそうかもなんですけど。短期間でどんどんレベルが上がったせいで、実感が全然ないと言いますか……」

「大丈夫。アイセルに実感がなくても、後ろで見ている俺はこれ以上なく成長を感じてるから」

「ほんとですか!?」

「ほんとほんと。だから十分にやれるよ。いつも通り、なるべく1対1を作って囲まれないようにすれば、Aランク相当のキングウルフの群れが相手だろうが、まず負けはしないさ」

「ですが複数を相手にするとなると、万が一ケースケ様のほうに逃げられては……」

「ああ、それなら安心してくれ、この日のために奥の手を用意しておいた。抜かりはない」

 自信満々で言った俺に、

「奥の手? 何ですか?」
 アイセルがキョトンとした顔で首をかしげた。

「うーん、ちょっと言いづらいから詳細は今は聞かないでくれ。使わないに越したことはないし。でも効果は抜群だから。秘密兵器だと思っていてくれ」

「はぁ……」

「ま、そいつがあるからさ、アイセルは基本は自分のことだけを考えて戦ってくれて大丈夫だから」

「……わかりました」

「よし、話は終わりだ。早速、明日の朝一で出没地域に向かうぞ。狙いは街道沿いのB地点に出るって言う小さめの群れだ」

「街道沿いだと移動が楽なのと、わたしが1人でも戦いやすいよう小さい群れを狙うってことですね?」

「さすがアイセルは理解が早いな。今回は俺たちがのし上がるにはちょうどいいクエストだ。他のパーティが擦り合わせに時間をかけてる間に、俺たちは一番槍でサクッと美味しいところを持っていかせてもらおうぜ」

「はい!」

 俺たちは宿に帰って明日の準備を整えると、いつもより早めに床に就いた。
 これを見越して既にある程度用意はしてあったから準備といっても楽なもんだ。

 明日の朝一番の馬車で近くまで行き、討伐クエストを開始する――!