最後のクエストの出発前日。
「あれ? ケースケ様、買い物でも行くんですか? それともまたクエストの資料集めですか?」
俺が拠点の屋敷から外に出ようとすると、玄関でちょうどどこかへ出かけようとしているアイセルと鉢合わせた。
「いや、さすがに資料集めはもう終わってるよ。念のためもう一回一通り読み込んで頭の中を整理してたんだけど、ちょっと気分転換もかねて外の空気でも吸いに行こうかなって思ってさ。ちょうど行ってみたい所もあったし。アイセルは買い物か?」
「わたしも荷作りが終わったので、街でもぶらついて気分をリフレッシュしておこうかなぁと思いまして。あのケースケ様、その行ってみたい所にわたしもご一緒してもよろしいでしょうか?」
「もちろんいいけど、別に楽しいところに行くわけじゃないぞ? すぐそこの寺院に行くだけだし」
「ケースケ様が寺院に行くなんて珍しいですね?」
アイセルが「おや?」という顔をした。
「ん、そうか?」
「だってケースケ様ってあまり神様とか信じてないタイプですよね?」
「いや、神様はいるんだろうなくらいには信じているぞ?」
「あ、そうなんですね。ちょっと意外です。もっとリアリストなのかと思っていました」
「なんて言うのかな、神様はいるとは思っているんだよ。でも特に人を助けてくれるような存在だとは思っていないかな」
「えーと、つまり神様は冷たい存在だってことでしょうか?」
「冷たいっていうか、神様だって世の中のことに何でも首を突っ込むほど暇じゃないだろうし、地上のことはやっぱり地上に住んでいる俺たちが自分たちの手でどうにかしないといけないんだろうなって感じで思ってる」
「ふむふむ、そういう理解の仕方ですか。納得です。存在は信じていても、御利益なんかはないと思っているわけですね」
「そういうことだな」
「あれ? ではケースケ様は今日は何をしに寺院に行くんでしょうか?」
「ほら、今回のクエストはいつになく難易度が高いだろ? だから気分転換ついでにダメ元で神頼みでもしに行こうかなって思ってさ」
「つまり効果は無くて元々、あったらラッキー。気分転換ついでにちょっと寄ってみるか、くらいの感じですね?」
「さすがアイセル、理解が早いな」
「えへへ、ありがとうございます……」
俺がそっと優しく頭を撫でてやると、アイセルが嬉しそうにはにかんだ。
その心からの笑顔を見ていると、俺の心も幸せな気持ちで満たされていくのがわかる。
「それに今回は高い山に登るからさ。神頼みでもいいから、頼むから雪は降らないで欲しいなって思ったんだよな」
言いながら、俺はかつて勇者パーティ時代に経験したとても辛い過去の記憶を思い出してしまっていた。
「あの、なんだか声がすごく切実な気がするんですけど、雪は嫌いなんですか?」
アイセルが心配そうに尋ねてくる。
「昔さ、勇者パーティ時代なんだけど、山登り中に季節外れの大雪に降られたことがあったんだよ」
「わわっ、それは大変でしたね」
「そうなんだよ、ほんと大変だったんだよ。猛吹雪で真っ白になって視界はほとんどないし、方向感覚もなくなるし。あの時は寒さと疲労でマジで死ぬと思ったからな。あれ以来、俺は雪山にだけは絶対に登りたくないと思っているんだ」
「そ、そうでしたか……でしたら尚更わたしもご一緒します! 1人より2人の方が神頼みもきっと効果があるはずですから」
アイセルが胸の前で両手をぎゅっと握って頑張りますのポーズをした。
そのとても愛らしい姿を見て、寒くて辛かった冬山の記憶を思い出してどんよりしていた俺の心も、すぐにほわほわほっこり回復する。
「そうだよな、2人で頼んだ方が聞いてくれる可能性もきっと上がるよな。じゃあ一緒に神頼みに行くか」
「はい!」
そんな風に玄関でアイセルととりとめもない話をしていると、
「あ、だったら私も行くし!」
サクラが元気よくやってきた。
その隣にはシャーリーもいて、苦笑いしながらぐいぐいとサクラに手を引かれている。
その姿を見てなんとなく、年の離れた姉と妹のようだと思ってしまった。
「あれ? ケースケ様、買い物でも行くんですか? それともまたクエストの資料集めですか?」
俺が拠点の屋敷から外に出ようとすると、玄関でちょうどどこかへ出かけようとしているアイセルと鉢合わせた。
「いや、さすがに資料集めはもう終わってるよ。念のためもう一回一通り読み込んで頭の中を整理してたんだけど、ちょっと気分転換もかねて外の空気でも吸いに行こうかなって思ってさ。ちょうど行ってみたい所もあったし。アイセルは買い物か?」
「わたしも荷作りが終わったので、街でもぶらついて気分をリフレッシュしておこうかなぁと思いまして。あのケースケ様、その行ってみたい所にわたしもご一緒してもよろしいでしょうか?」
「もちろんいいけど、別に楽しいところに行くわけじゃないぞ? すぐそこの寺院に行くだけだし」
「ケースケ様が寺院に行くなんて珍しいですね?」
アイセルが「おや?」という顔をした。
「ん、そうか?」
「だってケースケ様ってあまり神様とか信じてないタイプですよね?」
「いや、神様はいるんだろうなくらいには信じているぞ?」
「あ、そうなんですね。ちょっと意外です。もっとリアリストなのかと思っていました」
「なんて言うのかな、神様はいるとは思っているんだよ。でも特に人を助けてくれるような存在だとは思っていないかな」
「えーと、つまり神様は冷たい存在だってことでしょうか?」
「冷たいっていうか、神様だって世の中のことに何でも首を突っ込むほど暇じゃないだろうし、地上のことはやっぱり地上に住んでいる俺たちが自分たちの手でどうにかしないといけないんだろうなって感じで思ってる」
「ふむふむ、そういう理解の仕方ですか。納得です。存在は信じていても、御利益なんかはないと思っているわけですね」
「そういうことだな」
「あれ? ではケースケ様は今日は何をしに寺院に行くんでしょうか?」
「ほら、今回のクエストはいつになく難易度が高いだろ? だから気分転換ついでにダメ元で神頼みでもしに行こうかなって思ってさ」
「つまり効果は無くて元々、あったらラッキー。気分転換ついでにちょっと寄ってみるか、くらいの感じですね?」
「さすがアイセル、理解が早いな」
「えへへ、ありがとうございます……」
俺がそっと優しく頭を撫でてやると、アイセルが嬉しそうにはにかんだ。
その心からの笑顔を見ていると、俺の心も幸せな気持ちで満たされていくのがわかる。
「それに今回は高い山に登るからさ。神頼みでもいいから、頼むから雪は降らないで欲しいなって思ったんだよな」
言いながら、俺はかつて勇者パーティ時代に経験したとても辛い過去の記憶を思い出してしまっていた。
「あの、なんだか声がすごく切実な気がするんですけど、雪は嫌いなんですか?」
アイセルが心配そうに尋ねてくる。
「昔さ、勇者パーティ時代なんだけど、山登り中に季節外れの大雪に降られたことがあったんだよ」
「わわっ、それは大変でしたね」
「そうなんだよ、ほんと大変だったんだよ。猛吹雪で真っ白になって視界はほとんどないし、方向感覚もなくなるし。あの時は寒さと疲労でマジで死ぬと思ったからな。あれ以来、俺は雪山にだけは絶対に登りたくないと思っているんだ」
「そ、そうでしたか……でしたら尚更わたしもご一緒します! 1人より2人の方が神頼みもきっと効果があるはずですから」
アイセルが胸の前で両手をぎゅっと握って頑張りますのポーズをした。
そのとても愛らしい姿を見て、寒くて辛かった冬山の記憶を思い出してどんよりしていた俺の心も、すぐにほわほわほっこり回復する。
「そうだよな、2人で頼んだ方が聞いてくれる可能性もきっと上がるよな。じゃあ一緒に神頼みに行くか」
「はい!」
そんな風に玄関でアイセルととりとめもない話をしていると、
「あ、だったら私も行くし!」
サクラが元気よくやってきた。
その隣にはシャーリーもいて、苦笑いしながらぐいぐいとサクラに手を引かれている。
その姿を見てなんとなく、年の離れた姉と妹のようだと思ってしまった。