『精霊の泉』でウンディーネと古の盟約を交わすクエスト無事に終えた俺たちは、クエスト完了を冒険者ギルドに報告した。

 さらに半月の休養をとってしっかりと疲れを取った後、シャーリーのお父さんから出されていたクエストの最後の一つに取り掛かることにした。

 もちろん戦闘ではからっきし役に立たない俺は、パーティ『アルケイン』のみんなが休んでいる間に、資料集めやら情報収集やらで毎日駆けずり回っていたわけなんだけど。

 それはそれとして。

「これからシャーリーのお父さんが出してきたクエストの最後の1つに挑む」

 俺は屋敷(サクラがくれた、ハウスキーパー常駐のお屋敷ね)の居間にパーティの面々を集めると、クエストの詳細な説明を始めた。

1.レッサードラゴンの巨大な群れの討伐
2.盗掘によって蘇ったアンデット傭兵王グレタの鎮魂
3.最上位の水の精霊ウンディーネとの古の盟約の更新

 とクリアしてきてこれで4つめ、文字通りに最後だ。

 これまでのクエストはどれもこれもSランクパーティでも手を焼く高難度クエストばかりだった。

 伝説の傭兵王グレタとの戦いでは敵陣中央に誘い込まれた上に、接近戦では向かうところ敵なしだったアイセルが簡単に突破されて俺が接近戦に持ち込まれてしまい、あわや死にかけたし。

 『古の盟約』の更新ではウンディーネ配下のドリアードやウッドゴーレムたちと、激しい頭脳戦をやったりもした。

 でもそれも次で終わり、ついに最後の一つだ。

「最後はどんなクエストなんでしょうか?」

 いつものようにパーティのエースたるアイセルが、手を挙げながら真面目な顔をして尋ねてくる。

「南部諸国連合の東端にあるフルムント王国。その山奥にある2500メートル級の岩山の山頂付近に、謎の神殿遺跡が見つかったらしい。そこの調査をしろってことみたいだな」

「えーと、古代研究の専門家ではなく、冒険者のわたしたちが遺跡調査ですか? 専門家の護衛任務ならまだしも、それはどうなんでしょうか?」

 アイセルが不思議そうな顔を見せる。

「なんでも場所が場所なんで訓練を受けていない調査員を向かわせるのはちょっと厳しいみたいだな。目的の神殿がある山は、かなり険しい山岳地帯の奥の方にあるらしいから。だから代わりに俺たちが探索から調査まで全部行うんだ」

「はぁ……、ですが調査といっても古代文明については、シャーリーさん以外はみんな素人ですよ? 雑学王のケースケ様はそれなりには詳しいかもですけど」

 俺の説明を聞いてもアイセルはイマイチ腑に落ちないようだった。

 そんなアイセルに、

「むぐむぐ……ごくん。そりゃあれでしょ? シャーリーのパパさんが絶対に攻略できないクエストを用意してたってことでしょ? まったく超がつく親バカよね! シャーリーは美人だから心配するのも仕方ないけど!」

 俺がその辺りのことをマイルドに説明しようと口を開く前に、最近この辺りでも販売されるようになった『元気印のアイセルまん』を食べながらのサクラが、ズケズケあっけらかんと言って、

「ま、パパのことだから間違いなくそういうつもりでしょうね。『どうだ、攻略できるものなら攻略してみろ!』ってドヤ顔で言ってる顔が目に浮かんでくるわ」

 今回の件の中心人物である当のシャーリーも苦笑いをする。

「まぁシャーリーのお父さんは俺とシャーリーの仲を引き裂くのが目的だし、なにせやり手のギルドマスターだ。当然最後には絶対無理ってレベルの超高難度クエストを用意してるよな。さすがにここまできついのは予想していなかったけど」

「それに場所の問題だけじゃなくて、何の古代遺跡かも分からない以上、どんな危険が待ち受けているかも分からないですもんね」

 これまでいくつもの高難度のクエストに挑み実戦経験を重ねてきたアイセルは、今回のクエストにはなんとも納得がいかないみたいだ。

 話を聞いてからずっとアイセルは思案顔をしている。

 もちろんいい傾向だ。

 これまでのいろんな経験がアイセルの中に正しく蓄積されて、どんな問題があるのかをパッと感じ取れるようになった証拠だから。

「確かに、中にヤバいのが封印されてでもいたら、まずいもんなぁ」

 ついこの間だって古代遺跡に踏み入ったせいで、レインボードラゴンなんていう最上位ランクの魔獣と遭遇戦でやり合う羽目になったわけだし。