俺たちが『精霊の森』に踏み入ってしばらくすると、

「ケースケ様、そろそろ出てきそうな雰囲気です」
 アイセルがそう言うと、少し開けた場所で足を止めた。
 警戒するように周囲に視線を巡らせている。

「うん、精霊がざわついてる。怒りの精霊『フラストレ』が影響されてすごく出たがってるもん」
 サクラもアイセルに同意見のようだ。

 残念ながら俺とシャーリーは感じ取れないけれど、この2人が言うのなら間違いはないだろう。
 特に精霊相手ということで、精霊とともに戦うサクラの意見は貴重だ。

「同じ精霊同士、気配を感じとってるのかもな。よし、ここで迎え撃とう。いつも通りアイセルとサクラが迎撃、シャーリーは俺を守りつつ戦況に応じて加勢で」

 俺の言葉を受けてアイセルが抜剣し、サクラが怒りの精霊『フラストレ』の力を解放する。
 シャーリーは俺の側に立つと白い杖を構えた。

 わずかな静寂の後、木々の間からのそりとウッドゴーレムが現れた。
 全身が木でできた、木製のゴーレムだ。

「来たな――!」

 しかし木でできているからといって油断はできない。
 精霊力によってその身体は鋼よりも硬く、しかもそれだけでなく木特有のしなやかさを併せもったやっかいな相手なのだ。

 しかも、

「ケースケ様、数が多いです! 20体以上はいます!」
「多く出るとは聞いてたが、まさかこんなにも出るのか――!」

 ウッドゴーレムは1体だけではなく、一気に20体を越えるウッドゴーレムが姿を現したのだ――!

 すぐに戦闘が始まった。

「いつも通りわたしが前で、サクラは援護を頼みます!」
「うん、分かった!」

 アイセルがサクラに指示を出すと、機先を制すように多彩な動きフェイントを入れながらウッドゴーレムたちに接近し、斬りかかった。

 数々の補助スキルによって、いまや空中ですら方向転換可能なアイセルの三次元立体機動によって、ウッドゴーレムたちは完全に翻弄され、そのうち何体かが態勢を崩す。

「うぉりゃぁぁあっっ!!」

 そして体勢を崩した手近な一体に、サクラが豪快にバトルアックスを振りまわして殴り掛かった。
 ウッドゴーレムはそれを受け止めようとして――しかし受けとめきれずに、強引に数メートルほど吹き飛ばされる。

「やっぱりバーサーカーってパワーが桁違いに高いから、ゴーレムみたいな巨大な相手に対しては特に強い職業よね」
 それを見てシャーリーが感想をつぶやいた。

「だな」

 さらに2体、3体、4体とアイセルに態勢を崩されながら、絶妙に釣りだされたウッドゴーレムたちを、サクラが派手に吹き飛ばしていく。

 アイセルが釣りだしてサクラが仕留める。
 2人の連携攻撃は完璧だった。

 だがしかし――。

「なんかぜんぜん効いてないんだけど!?」

 吹き飛ばされたウッドゴーレムたちは、サクラの強烈な一撃をまったく意に介した様子もなく、難なく立ちあがると他のウッドゴーレムたちと一緒に再び戦闘を再開したのだ。

 復帰したウッドゴーレムたちが、機動力があまり高くないサクラを四方八方から取り囲む。

「くっ、この!」
 サクラがバトルアックスを当り構わずぶんぶん振りまわして牽制する。

「打撃耐性が想像以上に高いです! サクラ、防御優先で! すぐ援護に行きます! 『剣気帯刃・オーラブレード』!」

「がんばる!」

 スキルの発動によってアイセルの剣がオーラをまとい、アイセルがサクラを攻撃するウッドゴーレムに斬りかかった。
 しかし巨大な大岩をあっさりと真っ二つにするほどの、超絶強化された魔法剣リヴァイアスの斬撃ですら、

「くっ、本当に硬いですね――!」
 ウッドゴーレムの外側にわずかな傷をつけるだけしかできなくて――。

「うーん、まったく効いてないってことはないんだろうけど、しなやかさと硬さを両立するウッドゴーレムの外側ばかりを斬ったり叩いても、効果は薄そうだな……」

 そして俺はというと、それを冷静に観察して分析していたのだった。