アイセルがサクラと同じように木剣を取ると、軽く握って素振りをする。
 すると木剣がヒュン、ヒュンと鋭い風切り音をたてた。

「当時は暇さえあればいつも剣の練習をしてたんです。騎士の方が村に滞在中に、一つでも多くのことを教えてもらおうって思っていて。ほんと懐かしいです」

「そういやアイセルって、村に来ていた騎士から正統騎士剣術を学んだんだよな」

「と言っても基礎的なこと全般と、あとは応用をちょびっとだけですけどね」

「そうは言うけど、庶民が正統騎士剣術を学ぶ機会はまずないからなぁ。ほとんど貴族の特権の1つみたいになってるし」

「そんじょそこらの冒険者とは、基礎からして違うってわけね」

 シャーリーが心から納得したようにうなずいた。

 ちなみになんだけど、俺も冒険者になるために少しだけ我流で剣術をやっていたことがある。
 まさかバッファーになるとは思ってもなかったから、当時は俺も夢に向かって練習をしていたんだよ。

 でもアイセルの全く無駄のない堂に入った素振りを見ていると、仮に俺がアイセルと同じ魔法戦士になれていたとしても、アイセルみたいに有名にはなれなかったろうなぁ……。

「でも木剣ってのはお土産としては悪くないわよね。値段も手ごろだし」

「真剣だと値段も結構しますし、なにより危ないですからね。例えば子供にねだられてお土産として買い与えるとしたら、こっちの木剣のほうがいいと思います」

「真剣だと錆び防止とかで普段から手入れもしないといけないしね」

「うーむ、もろもろ見越してサブプランとして用意されているわけか。商人ってほんとあれこれ色々考えてるんだなぁ……」


 俺はアイセルの輝くばかりの才能とともに、商魂たくましい観光協会の人たちにある種の畏敬の念を抱いたのだった。

「あと木剣って、足を骨折した時に便利そうですよね」
「ははっ、確かに杖としても使えるな」

 最後にアイセルが割と真面目な顔をして、そんなことを言ったのだった。


【CASE.3】

「見て見て! 『アイセルバーガー』だって!」

 言いながら、サクラが食べ物売り場の美味しそうなハンバーガーを指差した。

「むむむっ!? これはつまり、わたしの名前を使ったギャグってことでしょうか?」
「まぁ、ご当地ネタのギャグってことなんでしょうね」

 アイセルが難しそうな顔をし、シャーリーは思わず苦笑いする。

 アイセル=バーガーだから『アイセルバーガー』。
 捻りもなにもないドストレートな名前のハンバーガーだった。

「せっかくだから食べてみるか、普通に美味しそうだし」

「これってケイスケの奢りなの?」
「お前はそれしか言えんのかい。お嬢さまなのにボキャ貧なのか?」

 ボキャ貧とは「ボキャブラリーが貧困」という言葉の省略系だ。
 若い世代の語彙力が低下しているとかなんとか、そんな話が最近あるらしい。

「もうこれを聞くのが私のアイデンティティみたいな? パーティにおける私の役割的な? むしろ聞かないのがケイスケに失礼な気すらするかも?」

「そんな気は猫の額ほどもしねーよ……」

 ちなみに味の方は普通に美味しかった。

 ――とまぁこんな感じでテーマパークというだけあって、土産物屋だけでも充分に楽しめる作りになっていたのだった。