「『アイセル=バーガーの生まれ育った家』は現在入場1時間待ちになります。こちらの整理券を持って1時間後にまた来てください。入場料は1人1000ゴールドになります」

 そう列整理をしている係の人に言われた俺は、

「え、ああ、はい……」

 345と書かれた整理券をもらって馬車まで戻った。
 ちなみに馬車は近くの待機場に留めてあるんだけど、1時間で300ゴールドとられてしまう。

 本当になにがどうなってるんだ?

「あのケースケ様、どうして自分の家に入るのに、1時間待たされた上にお金をとられるんでしょうか……?」

 そしてアイセルが心底不思議そうに首をかしげる。

「むしろ俺が聞きたいんだけどな……。ここってアイセルの実家で間違いないんだよな?」

「はい、村は大きく変わってましたけど、この家だけは全く変わっていません。昔のままで、わたしの記憶にある通りです」

「でもその、なんて言うかさ? むしろこの家だけ田舎の民家って感じで、町の中で浮いてるような気がしなくもないというか。ほんとなにがどうなってるんだ?」

「わたしも、いったいなにがどうなっているのやら皆目見当が……」

 アイセルに聞いていた事前情報とは全く違っている村の状況に、俺たちがうんうん頭を悩ませていると、

「アイセルじゃないか! 帰ってたのか!」

 突然そんな声が聞こえてきたかと思うと、一人のおっちゃんが俺たちのところまで――いやアイセルのところまで駆け寄ってきたのだった。

「あ、お父さん!」
 その声に反応したアイセルは、弾んだ声をさせながらおっちゃんに振りむいた。

「やっぱりアイセルか! 大きくなったなぁ、元気そうでなによりだ!」
「お父さんも元気そうで良かった!」

 アイセルとおっちゃんがガシっと抱擁を交わす。

 おおっ、この人がアイセルのお父さんなのか。
 アイセルに似て優しくて気の良さそうな人だな。

 あとアイセルが少し子供っぽい話し方になってるのに、ちょっとほっこりする。
 こんなに子供っぽい言葉遣いのアイセルは初めて見たよ。
 多分これが家族向けの、完全に素のアイセルってことなんだろうな。

「ははは、俺はこの通り元気さ。もちろん母さんも村のみんなも、変わらず元気だからな」

「あのお父さん、そのことなんだけど。村がまるで別世界みたいになっちゃってて、これって何がどうなってるの?」
 アイセルの質問に、

「ん? ああそうかそうか。アイセルは知らないよな。ふふふ、実はな、ちょっと前にこの村はアイセル=バーガー生誕の地として観光開発されたんだよ」

 アイセルのお父さんは、自分の一番の秘密を教える時の子供みたいな顔になって、そう答えたのだった。

「観光開発?」
 そんなお父さんの答えに、アイセルがこてんと可愛らしく首をかしげる。

「村全体を借り上げてアイセルを称えるテーマパークにするって話でな。ほら、向こうにこじんまりとした住宅地が見えるだろ? 俺たちはあっちに引っ越したんだよ」

「そ、そんなことが……!?」

「なにせ手付金と毎月の土地利用料で、ものすごい額が貰えるんだ。道も綺麗に整備してもらえたし、村の皆は大喜びだよ。これも全部アイセルのおかげだ、お前は本当に自慢の娘だ」

「そうだったんだね。えへへ、ありがとうお父さん」
 お父さんに頭を撫でられたアイセルが嬉しそうに目を細めた。

 そして森の中を通る生活道路が綺麗に整備されていたのは、そういう理由だったわけか。
 っていうかアイセルを称えるテーマパークって超すごくない!?

「ちなみにアイセル、そちらの方々はもしかしてパーティ『アルケイン』のメンバーの皆さんかい?」
「あ、うん。こっちの男の人が――」

「初めましてケースケ=ホンダムと申します。パーティ『アルケイン』では後衛のバッファーを務めており、前衛でエースのアイセルさんには常日頃から大変お世話になっております」

 会話を聞きながらずっと話しかけるタイミングをうかがっていた俺は、時は来たとばかりにさわやかな笑顔を浮かべながら、丁寧に自己紹介をした。

 やっぱり第一印象は大事だからな。
 これが俺とアイセルのお父さんとの初対面。
 つまりは絶対に失敗は許されないわけで。

 俺は少しでも感じよく見えるように、猫の額ほども失礼が無いように、最高の自分を演出しながらアイセルのお父さんにあいさつをした。