「ああ、どの絵を見ても傭兵王グレタは必ず左手に腕輪をしてるんだ。後世に書かれた2次資料では時々してないのもあるけど、1次資料の傭兵王グレタは必ず左手に腕輪をしているんだ」

「これも、このページも、このページも! 間違いありません、服装は違っても必ず傭兵王グレタは左手首に腕輪をつけてます! 戦場でも付けているので分解式の籠手(こて)の一部なんでしょうか?」

「かもしれないな」

「あ、でもでも。王さまになった後は、この腕輪は少し浮いてる感じがしなくもないですか? これだけえらく安っぽいといいますか。腕輪をつけるにしても、もっと豪華なものの方が王さまにはふさわしいような」

「うん、俺もそう思う。それを踏まえた上で、この大勢の傭兵仲間たちと一緒に描かれている絵を見て欲しいんだ」

「……あっ! 他の傭兵たちもみんな、傭兵王グレタと同じ腕輪を左手に着けてます!」

「だろ? そして俺たちが戦った時は、傭兵王グレタはこの腕輪を着けてはいなかったはずだ」

「ちょっと待って下さいね、今思い出してみます。えっと……はい! たしかに左手に腕輪はありませんでした。ってことは――」

 アイセルが期待のこもった瞳で俺を見つめてきた。

「ああ、この腕輪が『仲間の絆』なんじゃないかな」

「仲間との共通の腕輪……」

「例えば戦場で敵味方をパッと判別するために、分かりやすい共通のアイテムをつけるってのは、割とよくあることだろ? もともとは傭兵団だったわけだし」

「つまりこの腕輪は同じ傭兵団だと判別する証であり、しかもそれだけでなく一緒に戦ってきた仲間である証なんですね?」

「おそらくそういうことだ。大切な仲間と同じ腕輪を、傭兵王グレタは王になってからもずっと身に着け続けていたんだよ。共に戦った仲間とのかけがえのない証――絆として」

 そこにはきっと、道半ばで命を落とした仲間への追悼の想いも込められていたに違いない。

「つまり傭兵王グレタは、盗掘によってこの腕輪を盗まれたせいで怒ったわけですね。何よりも大切な仲間の絆を奪われたから」

「多分な」

「きれいに全部繋がりましたね」

「よし、すぐにこのことを冒険者ギルド本部に報告して、死体で見つかった盗掘者が腕輪を持ってなかったかどうか、所持品の確認をしてもらおう」

「ですね!」

 俺たちは大図書館の蔵書を知り尽くし、資料集めを進んで手伝ってくれた司書の方に丁寧にお礼を言ってから大図書館を出ると、まっすぐ冒険者ギルド本部に向かい、腕輪について確認をとった。

 すると――、

「ビンゴですね!」
「ああ、ばっちりだ」

 そこにはかなり古い時代に作られたと思しき、無骨な腕輪があったのだった。

 …………
 ……

 冒険者ギルド本部に詳細な調査報告を終えた俺たちは、

「疲れたわ……うん、疲れた……」
「おう、お疲れさん……頑張ったみたいだな」

 お父さんからやっとこさ解放されてお疲れモードのシャーリーと、

「パパがケイスケに会いたがってたよ? もし暇ができたら是非とも顔を見せてくれって伝えといてって言われた」
「ヴァリエール様が? そうだな、じゃあシャーリーのお父さんが出したクエストが全部終わったら、一度ご挨拶に伺うとするか」

 久々に実家でゆっくり休日を過ごしてリフレッシュしたサクラと合流した。

 そして冒険者ギルドの精鋭プリーストたちを中心とした鎮魂祭祀団とともに、再び国立墓苑へとおもむいた。

 俺たちは傭兵団の絆の腕輪を傭兵王グレタの左腕につけると、丁寧に埋葬しなおしたのだった。

 もちろん既に物言わぬ死者となった傭兵王グレタは、何も語りはしない。

 ただ、

  ――汝に感謝を――

 風に乗ってそんな傭兵王グレタの声が、俺には聞こえたような気がしたのだった。