勇者アルドリッジを中心とする勇者パーティ。

 それは片手で数えるほどしかない「Sランクパーティ」の中でも最高位のパーティである。

 南部辺境の山岳地帯を荒らしまわっていた『暴虐の火炎龍フレイムドラゴン』を討伐した実績は、現役パーティでは他に類を見なかった。

 現在のメンバーは全部で5人。

 今日も南部諸国連合の評議会から直々に依頼されたクエストを完了し、最高級レストランのVIPルームで皆で食事をとっていたのだが――、

「ちょっと勇者! 今日のクエスト、事前情報と全然違ってたじゃない! どういうことよ!」

 食べ始るのもそこそこに、勇者パーティのメンバーで実質副リーダー的地位にいるシャーリーが、勇者アルドリッジに食って掛かった。

 シャーリーは現在は失われた伝説の古代魔法を復活させ使いこなす、世界でただ一人のレアジョブ『魔法使い』だ。

 得意の光魔法による強烈な範囲攻撃と、女神のように美しい容姿から『極光の殲滅姫(きょっこうのせんめつき)』という二つ名で呼ばれている。

 その職業的な特殊性&抜群の容姿だけでなく、各地の冒険者ギルドを束ねる冒険者ギルド本部のギルドマスターの一人娘という立場も、彼女の発言力を大いに高めていた。

 そして彼女は極めて気が強かった。
 たとえ相手が勇者であろうと、言いたいことはズケズケと言ってのけるタイプだった。

「落ち着けよシャーリー。事前情報と実際が違っていることくらい、ままあることだろう?」

 勇者は最初こそそう柔和に答えていたものの、

「あまりに違いすぎてるって言ってんのよ! それにここずっと情報の信頼性が低いわよね? 間違った情報が元で死ぬかもしれないのよ、きっちり下調べしといてよね!」

 シャーリーはさらに言葉をまくしたててくる。

「だからしっかりやっていたと言ってるだろう。誰しも間違うことくらいはある。イチイチ突っかかってくるな」

「はぁ? なに逆ギレしてんのよ? 結果が出てなきゃ意味ないって言ってんの。あーあ、ケースケがいたらこんなヘマはなかったでしょうに」

「おい、今の言葉は聞き捨てならないな。ボクがあいつに劣っているとでも言いたいのか?」

「え? もちろんそうだけど? あらやだ、分からなかった?」

「なにィ……っ!」

 シャーリーの言葉に、勇者の顔が一瞬で怒りの形相に変わる。

「だって結果的に劣ってるわけでしょ? 勇者の情報は穴だらけで使い物にならないんだから。アタシ何か間違ったこと言ってる?」

「なんだと? だいたいお前こそなんだ! 戦う以外は何もしないくせに上から目線で偉そうに言いやがって!」

 情報収集という点においてのみであはるが、それでもゴミカスバッファーのケースケに劣ると言われた勇者は、思わずカッとなって声を荒げた。

「はぁ? アタシは戦闘専門だし? っていうかアンタがケースケを追い出したんだから、アンタが責任もってケースケのやってた情報収集をやるのが筋ってもんでしょう?」

「ボクは勇者で、勇者パーティのリーダーだぞ!」

「へー。だから?」

「そのボクが情報収集みたいな面倒な裏方仕事を、毎回毎回やってやってるんだぞ!」

「なに? じゃあアタシらにやれって? リーダーならパーティメンバーに一方的に命令してこき使って、自分の尻拭いをさせていいってわけ?」

「そんなことは言ってないだろ!」

 売り言葉に買い言葉でどんどんとヒートアップする勇者とシャーリー。

「ちょっとちょっと、2人とも落ち着いてよ」

 いつになく激しく言い合う2人の対立を見かねて、アンジュが仲裁するように割って入った。
 しかし、

「アンジュにだけは止められたくないんだけど」

 シャーリーはこれ以上なく冷たく言い放ったのだ。

「え――」

「この際だから言わせてもらうけどさ。ケースケが抜けた原因ってアンジュでしょ? ケースケがパーティ抜けたのって、アンジュがケースケを裏切って勇者と寝たせいでしょ? ケースケは幼馴染で婚約者のアンタにぞっこんだったもんね」

「それは……」

「それは? どうしたの? 納得できる言い訳があるなら聞いてあげるけど? ほらほら言いなさいよ?」

「……」

「はいはい、ダンマリですか。ならもういいわ。じゃあアタシはしばらくパーティには参加しないから、そういうことでよろしく」

 そう言うとシャーリーは、ガタンとこれ見よがしに大きな音をたてて席を立った。

 食事にはほとんど手を付けてない。
 唯一、好物の杏仁豆腐だけは平らげていた。