「例えば狙撃は無理かな? さすがの傭兵王も、現代によみがえった魔法使いによる遠距離攻撃と戦ったことはないと思うんだよな。シャーリーの魔法でここから狙えないか?」

 シャーリーの魔法の中には射程30メートルほどのアウトレンジから一方的に狙い撃つ魔法があった。
 それで狙えないかと思ったんだけど、

「これだけ激しく動いてるのを狙うのはちょっと無理かなぁ。もともとあんまり精度もよくないし、威力も微妙だし。それこそアイセルに誤射しちゃうかも」

「やっぱ無理か」

「そういうわけだから正攻法には正攻法で、アタシも加勢してくるわ。1人より2人、2人より3人よ」

「アイセルがいいようにやられる相手だぞ、シャーリーの近接戦闘技術だと危なくないか?」

「もう、これ以上なくはっきり言ってくれるわね?」

「下手したらシャーリーの命にかかわってくることだからな。ここは嫌われたとしてもはっきり言うさ」

 シャーリーは後衛とは思えないほどに接近戦で戦えるものの、アイセルのようなバリバリの前衛職と比べれば近接戦闘能力は格段に落ちる。

 俺がここで中途半端に妥協して突っ込ませれば、その結果シャーリーが命を落とす可能性もあるのだ。

 俺はパーティのリーダーとして、ここで曖昧に妥協することだけは許されなかった。

「なに言ってるの、アタシのことを考えてくれているからこその発言でしょう? 嫌いになんかなるわけないじゃない。むしろケースケのそういうところがアタシは大好きなんだから」

「お、おう……」

 にっこり笑顔で大好きと言われて、戦闘中にもかかわらず俺はつい胸をドキッと高鳴らせてしまった。

「大丈夫よ、サクラの近くで牽制する程度だから。もう一人隙を窺ってる相手がいることを意識させるだけでも、プレッシャーになると思うから」

「まぁそれくらいなら大丈夫かな。でも無茶と無理は厳禁な」

「もちろん。じゃ、行ってくるからケースケはここで安全に待機しててね」

 シャーリーはそう言うと、サクラと合流してアイセルの支援を始めた。

「……」

 そんな風に3人が連携してリヴィング・グレタに立ち向かっていくのを、俺はこの離れた場所で一人黙って見守っていた。
 俺だけ安全地帯で見ているのはいつものことだから、仕方がない。

 開幕バフしたら要らない子。
 後衛不遇職バッファーとはなにをどうしても、こういう職業なのだから――。

 それにシャーリーが加勢したおかげでパワーバランスが変化し、アイセルが攻め込む場面が少しずつ増えてきた。
 これならもう少しすれば倒せそうな雰囲気だ。

 俺はいつものように戦いをじっと見守っていたんだけど――、

 次第に防戦一方に追い込まれつつあったリヴィング・グレタが突然、間合いを取るように、バッ!と大きくジャンプしたのだ。

 そしてリヴィング・グレタが着地したのは、あろうことか俺の目と鼻の先だった。

 骸骨のがらんどうの目と俺の目が、バッチリ合ってしまったような気がして――、

「ぎええぇぇぇっ!? うそぉっ!?」

 俺は悲鳴のような叫び声をあげた。

「ケースケ様!?」
「ケイスケ!」
「ケースケ逃げて!」

 ぐっ、3人の声が遠い!

 こっちに向かって来るのが視界の端に見えるけど、ダメだ、間に合わない。
 みんなの支援は受けられない。

 つまり俺がボスと1対1でマッチアップするという、最悪の局面になってしまったわけだ――!