「しかも、だ。バフスキルはパーティを組んで初めて使える効果だろ? 一人だけだと無能力と変わらないんだよ」

「わわっ、そう考えると確かにバッファーはとてつもなく不遇職です。パーティ全体をパワーアップさせるすごいスキル持ちなのに、一番の不遇職だっていう理由がやっとわかった気がします」

 もちろんガッツリ筋トレをすれば筋力は増やせる。
 だけど身体が重くなるし、持久力が落ちたりといったデメリットもある。

 それに対して魔法戦士なんかのレベルアップによるステータス向上は、例えば筋力なら筋肉の質を上げるって言えば分かりやすいかな。

 同じ筋力の量でより長く、より強い力が出せるようになるのだ。

「そんな不遇職のバッファーだから直接戦闘は極力避けたくて後ろにいるんだけど、だからって敵と戦いにならないわけじゃないからな」

「はい、むしろ知能の高い魔獣なんかには優先して狙われるかもです」

「アイセルが討ち漏らした敵に襲われても、いなすか最悪でも逃げ切れるようにしておかないといけないから、防具とか逃げるための道具が欲しいんだよ」

「ふむふむ、納得です」

「ちなみに便利なのはマキビシだな。ついでに買っておきたい」

「マキビシってシノビとかの隠密系職業が使う、あのトゲトゲの奴ですよね?」

「そうそう。ヒシって言うトゲのついた植物の種を、逃げながらバラまくんだよ」

「逃げながらバラまくんですか……」

「おいおい、なんだその顔は。ヒシは踏んだらすごく痛いんだぞ? 中型の魔獣でも踏んだら飛びのくんだぞ? すごいんだぞ?」

 痛みに無頓着な魔獣もいるが、少なくとも何を()いたのか警戒してくれれば、それで相手がスピードを落とした隙に逃げるか味方に助けを求めることができるのだ。

「それは知ってますけど、やっぱり冒険者らしくないなぁって……」

「まぁそう言うな、実は俺も内心ではそう思ってるから」

 情けないまでに戦えないのがバッファーという職業だった。

「本当に不遇ですね……」

「ま、そういうわけだからさ。質入れした勇者パーティ時代の装備は無理にしても、せめてそれなりの装備は整えておきたいんだよな」

「納得しました。それにわたしも新しい剣が欲しいかなって思ってたんです。今日の戦闘でちょっと刃が欠けちゃいまして……研ぎに出すより、いっその事もう少し高性能な剣に買い替えようかなって」

「それなら魔法剣を買うといいかもな。頑丈だし」

「魔法剣ですか? たしかにわたしの『武器強化』スキルの恩恵を受けられるので、ありかもですけど。でもちょっと高すぎるかなぁって」

「資金なら俺も出すぞ。『天使の加護――エンジェリック・レイヤー』は魔法剣にも対応するから、魔法剣を持ってればアイセルの強化スキルと俺のバフスキルの相乗効果で、戦闘力は格段に上がるはずだ」

「そうなんですか!? S級スキルとは言え、魔法剣にも対応とか凄すぎません!? あ、でもさすがにお金を出してもらうのは……」

「初期投資は一番大切だと思うんだよな。特にパーティ『アルケイン』は、戦闘面ではアイセルのワントップだろ? できる限りそこには資金投入しておきたい。もし万が一にでもアイセルが死んだら、次に死ぬのは俺だし」

 前衛戦闘職が全滅した時のサポート専門後衛職の行く末は、説明するまでもないだろう。

「それはそうかもですけど……」

「俺の命のためにも、とりあえず明日は武器屋に行って魔法剣を買えそうなら買うってことで」

「わかりました。ケースケ様のご厚意に甘えたいと思います」

「そんなかしこまらなくても、いいっていいって。巡り巡って俺のためでもあるんだからさ」

「えへへ、ケースケ様はすごくすごく優しいですね……すっごく素敵です」

「ん、ごめん、最後のほう声が小さくて聞こえなかったんだけどもう一回ってもらってもいいかな?」

「なんでもありませーん!」

「そう? ま、そういうことだから明日は朝一で乗合馬車に乗って隣の大きな街に向かおう。いい武器屋を知ってるんだ。じゃあ今日はもう遅いし、そろそろ部屋に戻ろうぜ」

「はい! ではまた明日よろしくお願いします」

 俺とアイセルは宿泊用の部屋がある2階に向かった。

 今日からアイセルは、俺の隣の部屋に泊まることになっていた。

 一緒にパーティを組むわけだし、情報の伝達面でも安全面でも場末の安宿よりこっちで一緒の方がなにかと都合がいいからだ。

 熱いシャワーを浴びてから俺はベッドに倒れ込んだ。


「久しぶりに動いて、ちょっと疲れたな……」

 なにせ3年ぶりの冒険だったのだ。
 レベル120とは言え、ブランクは隠せなかった。

「それにしてもアイセルは思っていた以上に有能だったな……」

 最悪、俺がオトリになって逃げることで、イービル・イノシシの戦力を分散をするつもりだったのに、

「まったくピンチになることもなく、たった1人で群れを全滅させてしまったもんな……」

 パーティの仲間にこういう言いかたは良くないかもだけど、かなりの掘り出し物だった。
 しかも唯一の欠点だったメンタル面の弱さは、俺のバフスキルでなんとでもなるきたもんだ。

「これはもう出会えた偶然に感謝したいくらいだな……」

 充実感に満たされながらそんなことを考えていると、次第に睡魔が襲ってきて。

 俺はあの一件以来、この3年で初めてあの日の悪夢を見ずに眠ることができたのだった。