「えへへ、今日はケースケ様とデートです」
アイセルが俺の手を引き引き握りながら、嬉しそうに歩いていく。
豆乳からできた杏仁豆腐をシャーリーと堪能した翌日。
俺は今度はアイセルと街に遊びに来ていた。
「今日はどこに行くんだ?」
「猫カフェです♪」
ニッコリ笑顔で言いながら、アイセルは表通りから3本裏の狭い通りをどんどんと進んでいく。
「猫カフェ? 猫がお出迎えでもしてくれるのか?」
「それは見てのお楽しみですので――あ、着きましたよ、ここです」
アイセルが連れてきてくれたのは、見た目はなんの変哲もない喫茶店だった。
入り口にCafe・Kokoと書いてあるから、これが店名なのだろう。
ココさんがオーナーなのかな?
アイセルがドアを開けると、
「いらっしゃいませ~♪」
反応よくお出迎えの声が飛んできた。
明るく朗らかで軽快な声色が実に耳に心地いい。
だけど俺は素晴らしいお出迎えの挨拶よりも、店内に広がっていた光景の方に驚きを禁じ得なかった。
「ウェイトレスさんにネコ耳が生えてる。もしかして獣人族ネコ耳科か? この辺りじゃ珍しいな」
なんと店内に2人いたウェイトレスさんはどちらも、獣人族のネコ耳科だったのだ。
「今回の休み中にたまたま通りかかった時に見かけたんですよ。でもその時は時間がなかったので、近いうちに来ようと思ってたんです」
「なるほどな、だから猫カフェか」
「はい♪」
俺たちの住む南部諸国連合は、人間とエルフの国家連合だ。
なので人口のほとんど全てを人間とエルフが占めている。
当然、獣人族を見るのはとても珍しい。
そして獣人族の中でも特にネコ耳科は、イヌ耳科と並んで可愛いと人気の高い勝ち組モテ種族なのだった。
この店はきっとそれを売りにしてるんだろうな。
「いらっしゃいませ~! いけてるおにーさんと可愛いおねーさん♪」
2人のウェイトレスのうちの1人が、短いスカートをひらひらさせながら、人懐っこい笑顔と声で近づいてきた。
「2名で、可能なら窓際の席をお願いします」
アイセルが希望を伝えると、
「はーい♪ 2名様、お日様ポカポカ窓際席にごあんな~い♪」
店員さんはテンション高く耳としっぽをぴこぴこ動かしながら、日当たりのいい窓際の席へと案内してくれた。
「俺はお勧めブランチセット、ドリンクはコーヒーを頼む、濃い目で」
「わたしはマッチャケーキと紅茶のセットをお願いします。紅茶はストレートで、ミルクも砂糖もいりませんので」
「は~い♪ ブラコー濃いめと、マッチャセットストレートだねー、しょーしょーお待ちくださいませ~♪」
注文を受けた店員さんがにゃははと笑顔で復唱してから、足取りも軽くキッチンに向かうのを見ながら、俺はアイセルと世間話をはじめた。
世間話と言ってもアイセルとは普段からパーティで団体行動をしているし、屋敷でも一緒に暮らしているから、特にこれと言って話すようなことはないんじゃないかなと、不安に思ってたんだけど。
2人っきりでなにかをするのはかなり久しぶりだったので、思った以上に話は弾んだ。
もしかしたらアイセルはずっと俺と2人で話したかったのかもしれないな。
なにせ最初の頃は、なにをするでも俺とアイセルの2人きりだったのだ。
全てのことをアイセルと2人で一緒に協力し、コミュニケーションは常に2人だけで完結していた。
そんなパーティ『アルケイン』結成当時と比べれば、今は俺とアイセルが2人きりで話す時間は大きく減ってしまっている。
アイセルはよくできたいい子なので、それについて一度も不満を述べたことはなかった。
けれどきっと寂しい思いをしていたんだろう。
よし、これからはもっとアイセルと2人でいる時間を優先的に作るとしよう。
幸い、サクラの夜のレッスンもある程度は教え終えた感があるし、時間はとれそうだからな。
俺は今後の行動の優先順位を少し修正し、より多くの時間をアイセルに振り分けることに決めた。
そんな感じでアイセルと楽しく話していると、
「ねーねー、おにーさんたちってもしかしてパーティ『アルケイン』?」
俺たちの会話に聞き耳を立てていたのか、さっきのフレンドリーなウェイトレスさんが話しかけてきた。
「ああ、そうだよ」
「やっぱり!? ってことは、美人のハーフエルフのおねーさんがアイセル=バーガーさんで、そっちのイケてるおにーさんがケースケ=ホンダムさんだよね?」
「おおっ? 俺の名前を知ってるのか?」
俺はそのことにとても驚いて、思わず聞き返してしまった。
基本的に目立った活躍がない俺の名前は、一般人にはほとんど知られていない。
アイセルが絶対エースで、サクラがいて、あともう一人いるらしい(今はさらにシャーリーもいるけど)、みたいな程度の認識だ。
この前舞台化されたアルケインの成り上がり冒険譚も、アイセルが一人で次々とクエストをクリアしていくストーリーだったし(俺は存在すらしていない)。
アイセルに全ての名声が集中するように仕向けたのは他ならぬ俺自身なんだけど、さすがにちょっとこの扱いは酷くない? と思わなくもない今日この頃だったりするってのに、まさか俺の名前をフルネームで知ってるんだから驚くってなもんだった。
アイセルが俺の手を引き引き握りながら、嬉しそうに歩いていく。
豆乳からできた杏仁豆腐をシャーリーと堪能した翌日。
俺は今度はアイセルと街に遊びに来ていた。
「今日はどこに行くんだ?」
「猫カフェです♪」
ニッコリ笑顔で言いながら、アイセルは表通りから3本裏の狭い通りをどんどんと進んでいく。
「猫カフェ? 猫がお出迎えでもしてくれるのか?」
「それは見てのお楽しみですので――あ、着きましたよ、ここです」
アイセルが連れてきてくれたのは、見た目はなんの変哲もない喫茶店だった。
入り口にCafe・Kokoと書いてあるから、これが店名なのだろう。
ココさんがオーナーなのかな?
アイセルがドアを開けると、
「いらっしゃいませ~♪」
反応よくお出迎えの声が飛んできた。
明るく朗らかで軽快な声色が実に耳に心地いい。
だけど俺は素晴らしいお出迎えの挨拶よりも、店内に広がっていた光景の方に驚きを禁じ得なかった。
「ウェイトレスさんにネコ耳が生えてる。もしかして獣人族ネコ耳科か? この辺りじゃ珍しいな」
なんと店内に2人いたウェイトレスさんはどちらも、獣人族のネコ耳科だったのだ。
「今回の休み中にたまたま通りかかった時に見かけたんですよ。でもその時は時間がなかったので、近いうちに来ようと思ってたんです」
「なるほどな、だから猫カフェか」
「はい♪」
俺たちの住む南部諸国連合は、人間とエルフの国家連合だ。
なので人口のほとんど全てを人間とエルフが占めている。
当然、獣人族を見るのはとても珍しい。
そして獣人族の中でも特にネコ耳科は、イヌ耳科と並んで可愛いと人気の高い勝ち組モテ種族なのだった。
この店はきっとそれを売りにしてるんだろうな。
「いらっしゃいませ~! いけてるおにーさんと可愛いおねーさん♪」
2人のウェイトレスのうちの1人が、短いスカートをひらひらさせながら、人懐っこい笑顔と声で近づいてきた。
「2名で、可能なら窓際の席をお願いします」
アイセルが希望を伝えると、
「はーい♪ 2名様、お日様ポカポカ窓際席にごあんな~い♪」
店員さんはテンション高く耳としっぽをぴこぴこ動かしながら、日当たりのいい窓際の席へと案内してくれた。
「俺はお勧めブランチセット、ドリンクはコーヒーを頼む、濃い目で」
「わたしはマッチャケーキと紅茶のセットをお願いします。紅茶はストレートで、ミルクも砂糖もいりませんので」
「は~い♪ ブラコー濃いめと、マッチャセットストレートだねー、しょーしょーお待ちくださいませ~♪」
注文を受けた店員さんがにゃははと笑顔で復唱してから、足取りも軽くキッチンに向かうのを見ながら、俺はアイセルと世間話をはじめた。
世間話と言ってもアイセルとは普段からパーティで団体行動をしているし、屋敷でも一緒に暮らしているから、特にこれと言って話すようなことはないんじゃないかなと、不安に思ってたんだけど。
2人っきりでなにかをするのはかなり久しぶりだったので、思った以上に話は弾んだ。
もしかしたらアイセルはずっと俺と2人で話したかったのかもしれないな。
なにせ最初の頃は、なにをするでも俺とアイセルの2人きりだったのだ。
全てのことをアイセルと2人で一緒に協力し、コミュニケーションは常に2人だけで完結していた。
そんなパーティ『アルケイン』結成当時と比べれば、今は俺とアイセルが2人きりで話す時間は大きく減ってしまっている。
アイセルはよくできたいい子なので、それについて一度も不満を述べたことはなかった。
けれどきっと寂しい思いをしていたんだろう。
よし、これからはもっとアイセルと2人でいる時間を優先的に作るとしよう。
幸い、サクラの夜のレッスンもある程度は教え終えた感があるし、時間はとれそうだからな。
俺は今後の行動の優先順位を少し修正し、より多くの時間をアイセルに振り分けることに決めた。
そんな感じでアイセルと楽しく話していると、
「ねーねー、おにーさんたちってもしかしてパーティ『アルケイン』?」
俺たちの会話に聞き耳を立てていたのか、さっきのフレンドリーなウェイトレスさんが話しかけてきた。
「ああ、そうだよ」
「やっぱり!? ってことは、美人のハーフエルフのおねーさんがアイセル=バーガーさんで、そっちのイケてるおにーさんがケースケ=ホンダムさんだよね?」
「おおっ? 俺の名前を知ってるのか?」
俺はそのことにとても驚いて、思わず聞き返してしまった。
基本的に目立った活躍がない俺の名前は、一般人にはほとんど知られていない。
アイセルが絶対エースで、サクラがいて、あともう一人いるらしい(今はさらにシャーリーもいるけど)、みたいな程度の認識だ。
この前舞台化されたアルケインの成り上がり冒険譚も、アイセルが一人で次々とクエストをクリアしていくストーリーだったし(俺は存在すらしていない)。
アイセルに全ての名声が集中するように仕向けたのは他ならぬ俺自身なんだけど、さすがにちょっとこの扱いは酷くない? と思わなくもない今日この頃だったりするってのに、まさか俺の名前をフルネームで知ってるんだから驚くってなもんだった。