「なんでそんな急に改まった態度するんだよ? 大事な話なのか?」

「とても大事ね、うん。すごく大事、一生に関わるくらいに」

「そんなにか」

 それを聞いた俺は、シャーリーに負けないくらいに背筋を伸ばして傾聴の姿勢を取った。

 はてさて、一体どんな話をされるのやら。

 俺はシャーリーの言葉を一言も聞き漏らすまいと、しっかりシャーリーの目を見てさあ来いと身構えたんだけど、

「ケースケはアタシとアイセルの2人を、異性としてそれなりに悪くないって思ってるのよね?」

 ……なんで今そんな話をするのかな?
 あれかな、話の前置きかな?

 いきなり出鼻をくじかれて、俺は思わず脱力してしまった。

「あまり人聞きの悪いことを言わないでくれよな? それだとまるで俺が二股してる女たらしの不埒者みたいじゃないか」

「別に複数の相手とよろしくやっても、それがどちらも誠実だったら問題ないと思わない? パーティでも仲良くそういう感じになってるところあるじゃない」

「まぁ冒険者パーティは一緒に過ごす時間が長い分だけ、親密な関係になるからな。そういう特殊な三角関係になってるところも無くはないみたいだな。っていうか何が言いたいんだよ? 大事な話があるんだろ?」

「だからこれがその大事な話だってば」

「……これがか?」

 俺がシャーリーの意図をどうにも読めないでいると、

「つまりね、ケースケがアタシとアイセルの両方を選んで幸せにしてくれれば、それでノープロブレム、問題解決なわけだよね?」

 シャーリーの口から突拍子もない提案が飛び出した。

「は……? なんだって?」

 そしてその言葉の意味するところを理解した俺は、思わず呆気に取られてしまう。

「アタシとアイセルは仲良くやれるわ。似た者同士だから分かるの、だからそこは安心してくれていいから」

「そういや今日のアイセルは妙にそっけなかったな。もしかして2人で示し合わせてたのか」

「そういうこと、今日はアタシの番なの。だから今度はアイセルをしっかりデートにエスコートしてあげてね? さっき約束してたもんね」

「確かにアイセルとデートする約束はしたけど、でも俺のあずかり知らないところで話がまとまって、なんていうかその、俺の意思はいったいどこに……」

「そうよ、つまり後はケースケの意思、気持ち次第ってこと」

「今のはそういう意味じゃないんだけどな? っていうか俺の気持ちって言われてもな」

「だってそうでしょ? どっちも大切なら、どっちも両方選べばいいわけじゃない? つまりケースケの決断次第よね?」

「それは……どうなんだろうな」

 いつもと変わらず押せ押せぐいぐいで来るシャーリーに、だけど俺は小さな声で異を唱えた。

「まだアンジュのことを引きずってるの? 一応乗り越えたんでしょ? それとも二人同時っていうのはどうしても許容できない?」

「これまたズバッと踏み込んできたなぁ」

 シャーリーの正面突破の質問に、俺は思わず苦笑いだ。

「アタシたちの仲でしょう? まどろっこしいのは好きじゃないのよね」

 シャーリーの言うとおりで、俺たちがそれだけ気心の知れた関係を築いてきたことは間違いなかった。

「そうだな、二股はやっぱりよくないよ。裏切られる方はすごく辛いから」

 だから俺も率直に気持ちを伝えることにした。

「アタシ的にはあれはアンジュがケースケに隠してたことが究極的に悪かったと思うのよね。だから2人を同時に愛して幸せにすることと二股とは、本質的にはちょっと違うかなって思うんだけど」

「そう……なのかな?」

「だってアタシたち3人の中に、裏切られる人はいないでしょ?」

「まぁ、確かに……?」

「でしょう?」

 シャーリーの言うことはイチイチもっともだった。

 例えば王さまに側室がいるのは普通だし、それを二股だという人間はいない。

 貴族だってそうだ。
 正妻公認の愛人がいるのが普通だし、冒険者パーティの中で特殊な三角関係を築く例もたしかにある。

 でも、

「ごめん、急に言われてもよく分からない。自分がそんな風になるなんて考えたこともなかったからさ。だからとりあえずは、考えるための時間が欲しいかな」

 まさか自分がそんな状況に陥る――なんてことは完全に想定の範囲外だったのだ。

 だからどんな答えになるにせよ、とりあえず俺は2人との関係とか自分の気持ちをもう少ししっかりと考えてから、結論を出したいと思った。