「アタシの主食は杏仁豆腐だからね」

「おいおい主食なのかよ」

「アタシの身体は杏仁豆腐でできてると言ってももはや過言ではないわね」

「そこまでなのか、なるほど」

「いつか飽きるほど食べてみたいとは思ってるんだけど、でもその後のことを考えると怖くて踏み切れないのよね」

「飽きるほど食べたら、その後はまぁ大変だろうな」
 主にカロリー的な意味で。

「それと死ぬときはぜひ杏仁豆腐に囲まれて死にたいわね」

「それを言うなら孫たちに囲まれてだろ。どんだけ杏仁豆腐好きなんだよ」

 俺が苦笑しながら言うと、

「孫ができるにはまず子供ができないといけないわよね、ケースケ♪」

 とかなんとか言いつつ、意味深な視線を向けられてしまった。

「まぁうん、順番的には当然そうだよな。子供がいなけりゃ孫は生まれないわけで」

 とりあえず俺は一般論でかわすことにした。

「まったくもう、アタシがこれだけ分かりやすく好意を向けてるのにいいお返事が貰えないだなんて。そんなことするのは世界中探してもケースケぐらいよ、きっと」

「一応今の俺はニセ彼氏なんだよな?」

「アタシがケースケを好きなのは本当だから」

「そ、そうか……ありがとう。うん、気持ちは嬉しいよ。俺もシャーリーのことは全然嫌いじゃないし」

 でも、改めて2人きりの状況で言われるとドキッとしちゃうだろ?

 シャーリーは絶世の美女だし、気に入らない相手には時々きつい時もあるけど基本的に性格も良い。
 勇者パーティでは何年も一緒に過ごしたし、気心も知れている。

 そんなシャーリーに真正面から好きと言われたら、俺も心がむず痒くなってくるわけでだな。

「嫌いじゃない、だなんて煮え切らないセリフね?」

「うん、まぁ、そうだな、悪い」

「ねぇケースケ。今のケースケがアタシの気持ちに応えてくれないのは、アイセルがいるから?」

「これまたズバッとストレートに聞いてきたな」

 センシティブな話に平然と踏み込んできたシャーリーに、俺はまたもや苦笑せざるをえなかった。

「何でも話せるケースケ相手に変な駆け引きをするより、こっちの方がよっぽどアタシらしいでしょ? 今は2人きりだし、それこそ聞くにはちょうどいいかなって」

 なるほど、たしかにシャーリーらしい考え方ではあるな。

「そうだな、それもある。正直言うとアイセルにはそれなりの好意を抱いてる」

「あら、それなりなんだ? あんないい子に好き好きアタックされてるのに?」

「だって年齢差がさ、あるだろ? 10才も離れてると俺もちょっとばかし気が引けるっていうか」

「向こうは全然気にしてないでしょ?」

「俺が気にするんだよ。それに社会経験が少ない若い時ってのは、身近な年上の異性に憧れるもんだからなぁ」

 特に俺がアイセルにやったみたいに、冒険者になるための家庭教師みたいなことをした時は特にそうだ。
 何でも知ってる(ように見える)大人に憧れを抱く子供は多い。

「まったく、ケースケはいろんなことを変に気にし過ぎなのよね。細かいことを気にしてストレスをため込み過ぎると早死にしちゃうわよ?」

「幸か不幸か、これ以上ない激しいストレスに遭遇して、最近乗り越えることができたばかりでな。もう大抵のことなら笑って流せるよ」

 これ以上ないストレスってのはもちろん、アンジュの裏切りのことだ。
 あれに比べたらほとんど全てのことが屁でもないっていうか。

「あら、それを聞いて少し安心したかも」

「安心?」

「うんうん、それなら問題ないかな」

「だからなんの話なんだよ? 勝手に納得されても困るんだけど」

「じゃあ言うわね」

 そう言ってシャーリーが背筋を伸ばして真剣な顔をした。