カフェに向かう道の途中、すれ違う人々の多くがシャーリーに視線を向けてきた。

 特に男性は彼女とデート中だろうが仕事中だろうが、ほとんど全員が呆けたようにシャーリーを見つめてくる。

「今までアンジュしか見てなかったから、すぐ目の前にいたのに理解できてなかったけど、シャーリーって本当に文句なしの絶世の美女なんだなぁ……」

「あら、ケースケがそんな歯の浮いたセリフを言うなんて、明日は大雨かしら?」

「え……? あれ? 俺今、声に出してた?」

「バッチリ聞こえたわね」

「うぐ、気を悪くしたのなら悪かった、忘れてくれ」

 どうやらシャーリーの美貌に魅せられていたのは、俺も同じようだった。

「なに言ってるのよ。せっかくケースケから褒めてもらったのに、忘れるなんてことできるわけないじゃない。お墓まで持っていくわよ」

「そ、そうか」

 そんなシャーリーに極上の笑顔で言われてしまった俺は、思わず口ごもってしまう。

「あら照れてるの? ケースケがそういう態度を見せてくれるなんて新鮮ね。やっとアタシの魅力に気づいたってことかしら?」

 そんな自信に満ち溢れたセリフも、ことシャーリーに限ってはそれが自信過剰だとはちっとも思わない。
 むしろ様になってるっていうか。

「そうだな、今さら気付いたよ。ほんと神さまってやつは、シャーリーのことが好きで好きでしょうがないんだろうなぁ」

 でないとバッファーなんてどうしようもない不遇職の俺がいる一方で、世界で唯一の魔法使いで、超絶美人で頭が良くて、性格までいいパーフェクトレディなシャーリーみたいな子がいるわけないよ……。

「よく言われるわね。でもちゃんと努力だってしてるのよ?」

「そうだな、うん、それも認めてるよ。シャーリーは努力を欠かさない魅力的な女の子だ。今までそのことを正しく理解してなくて悪かった、ごめんなさい」

 俺は過去の自分の視野の狭さを大いに反省して、素直に謝った。

「ふふっ、ケースケが謝る必要なんてないわよ。むしろケースケがやっとアタシを見てくれて嬉しいくらいだし。今まではアタシが何をどうしたって、女として全然気にかけてくれなかったもんね」

「だから悪かったってば」

「だからアタシも責めてるんじゃなくて、とっても嬉しいんだってば」

 なんて感じでしばらく積もる話をしながら歩いていると、そうは時間もかからずに俺たちは目的のカフェへと到着した。

 カフェはオシャレな感じの外観で、ドアのすぐ横にはチョークでお勧め商品を書いた黒板の看板が掛けてある。

 それを横目にドアを開けると、カランコロンと耳に心地よいドアベルが鳴り響く。

 すぐに店員さんが気持のいい笑顔で出迎えてくれて、シャーリーの希望で俺たちは陽のよく当たる窓際の席に座った。

「アタシはこの新作の杏仁豆腐と紅茶をお願いするわね」

「俺もその新作杏仁豆腐を。あとコーヒーをブラックで」

 俺は特に何か頼みたいものがあるわけでもなかったので、せっかくだからシャーリーと同じ新作の杏仁豆腐とやらを頼んでみた。

「かしこまりました、どうぞごゆっくりお待ちくださいませ」

 2人分の注文をメモした店員さんは、丁寧に腰からお辞儀をすると優雅な足取りで下がっていった。

「すごく感じのいい店だな、まるで高級レストランの給仕係みたいだ」

「この段階でもうまた来たくなっちゃうわよね」

「まったくだな」

 よし、今度アイセルと来てみるか。
 アイセルも甘いものが好きだからきっと喜ぶだろう――、

「あ、今、他の女の子のこと考えたでしょ?」

「ぶっ、げほ……え、いや、あの、はい、ごめんなさい」

 俺は何か言おうとして、でも何も言えなくて素直にごめんなさいをした。

 っていうかなに今の鋭すぎる洞察力。
 そんなパッと分かるものなの?
 怖いんだけど。

「別にいいわよ、どうせアイセルを連れてこようとでも思ったんでしょ?」

「……まぁ、はい、おおむねそんな感じでした」

「アタシは今まで散々されてきたから今さらいいんだけど、アイセルの前ではやっちゃだめだからね?」

「親身なアドバイスありがとう、しっかりと心に留め置いておくよ。まぁそれはそれとして、シャーリーはほんと杏仁豆腐が好きだよな。そんなにいつも食べてて飽きないのか?」

 シャーリーと2人でゆっくり過ごすのは本当に久しぶりだった。
 せっかくなので俺は昔から疑問だったことを尋ねてみた。