小学校へと向かう道の途中、変わった場所があった。
 竹やぶの間に石が敷き詰められている道があるのだ。歪な形をした石の数は88個。古いものらしく、誰が敷いたのかなんて誰に聞いても分からなかった。
 けれどその石の上を通る時のルールだけは誰に聞いても同じだった。
『終わりの石を渡りきるまで決して顔を上げてはならない』
 初めて聞いた時、いや在学中ずっとその意味がよくわからなかった。けれど大人達は行きも帰りもそう何度も繰り返し言い聞かせてくるのだ。それを踏まなければ学校に着くことも、学校から帰ることも出来ない。だから守るしかなかった。そして僕は6年間、朝と夕方に必ず下を向きながらその石を踏みしめていた。
 88個――小学一年生の時に数えた時はそうだったはずなのだ。
 間違いなんかじゃない。
 だって何度も声に出して数えたのだから。
 けれど卒業式の日、この道を通るのも最後だからと声に出して数えた石の数は100個。いつのまにかキリのいい数となっていたのだ。
 けれどいつのまに増えたのだろうか。
 いや、そもそもなぜわざわざ石の数なんて増やす必要があるのか。
 石の置かれている場所は等間隔ではないけれど、6歳になる前の僕だって石から石へと足を移すことは出来た。だからわざわざ増やす必要なんてない。なにせこの道は小学校へしか続いていないのだから。
 不思議に思った僕は何故だろうかと大人達に聞いてみた。
 けれども誰もが「知らなくていいことだ」とだけ告げて、後は口を閉ざすだけでだんまりだった。
 だから不満だったのに、いつしかそんなこと忘れてしまっていた。

 ――地元の小学校に先生として帰ってくるまでは。

「久しぶりね、賢治君」
 10年ぶりの先生は記憶にある姿よりもずっとおばあさんになっていた。けれど笑った姿は昔と変わらずに安心できるものだった。先生はこの分校でたった一人の先生で、僕を含む全校生徒を一人で見ていたすごい先生だ。僕はそんな姿に憧れてこうして小学校の先生を目指したのだ。
「それにしてもちょうどよく募集があって良かったです。僕らの時は先生しかいなかったから」
 先生に出してもらった緑茶をすすりながら笑うと、突如として先生の笑みが消えた。そしてまるで居間に飾られた能面のような表情が張り付く。
「ねぇ賢治君。あなたがいた時の生徒の数って覚えてる?」
「え?」
「一年生の時と六年生の時。何人いた?」
 いきなり何を?
 そう思いながらも頭の中で一緒に遊んだ子ども達の数を数えてみる。
 同い年の子はいなかったけれど、上と下には何人かいたはずだ……とそこまでは思い出せるのだ。けれど正確な人数が思い出せない。いや、それどころか思い出の中の子供達はみんなぼんやりと影のような何かでしかない。不思議なことにたった一人だって正確な名前や顔が思い出せないのだ。
 いくら大学の4年間は寮暮らしだったとはいえ、その他はこの小さな村で暮らしてきたのだ。
 小学校に通う子ども達の数だってそんなに多くはないはずだ。なのになぜ思いだせないのだろうか……。
 まるで記憶に靄でもかかってしまったかのようだ。なんとかそれを振り払おうと左右に首を振るのに、それはいつまでたっても僕の頭の中に居座り続ける。
「思い出せないでしょう?」
「……はい。楽しかったはずなのに、薄情ですよね」
「いいえ、そんなことはないわ。だってあなたはここを卒業してしまったんだもの」
「それはまぁ、卒業はしましたけど。でもそれってみんなそうでしょう?」
「本当にそう思う?」
「それはどういうことですか?」
「実はね、竹藪の道には子どもが好きな神様がいてね、お顔を見せると連れて行ってしまうの。だから顔を上げないようにって大人達は言い聞かせているのに、子どもって可愛いわよね。ダメって言われたらやっちゃうんですもの! だからみんな神様に連れていかれちゃうの。ねぇ賢治君、あの日、私に教えてくれたわよね? 石が100個に増えているって」
 神様が子ども連れて行ってしまうなんてそんな作り話を口にする先生の声は興奮して大きくなっていく。それに比例するように上がっていく口角。目はギョロリと見開かれていて、今にも落ちてしまいそう。
 そこにはもう僕の知っている先生はいなかった。まるで妖怪だ。
 僕は怖くなってその場から駆け出した。
 明日から勤め始めるのに、なんて関係ない。
 ただただ怖いのだ。
 先生が、学校が、そして竹やぶの中の道が。
 先生の前から逃げて、学校の中から逃げ出した。後は竹やぶの中を抜けるだけ。話を信じたわけではないが、顔を上げるのも怖くて、下を向きながら走り続けた。
 喉は息を吸い込むたびに切れてしまうのではないかと思うほどに乾いていた。それでも先生が追ってきたらどうしようと思うと足を止めることは出来なかった。
 ただ走るだけしか出来ない。
 それでもこの道を抜けてしまえば! という根拠のない希望の光は見えていた。
 なのにいつまで経っても道は終わってくれないのだ。たった100個の石を渡りきるだけなのに、進めど進めど終わりはこない。目の先にあるのは歪な石のまま。焦っていて石なんて数えている余裕はなかった。前を見ることが出来れば後どれくらいで終わるのか検討も付くのだろうが、そんな勇気は出なかった。だからいつか終わると信じて足を進めるだけ。そうは思っていても足が限界だった。元より運動は得意な方ではないのだ。
「あっ!」
 疲れた足は石の端に引っかかり、身体は前へとつんのめる。
 もうダメだ、と覚悟したその時だった。
「ケンちゃんには俺達がいなきゃダメだな~」
「ちょっと痛いかもだけど我慢するんだよ、ケンちゃん」
 少年と少女の声が聞こえると同時に背後から強い力で押し出され、地面へと身体が叩きつけられる。まるで子どもが腰にタックルでも決めたかのようだ。実習中は何度かこうして子ども達に抱き着かれたことがあったけれどここは山奥の田舎の村だ。村人の多くは80歳以上の高齢者で、若者と言えばこうして実家に帰って来た僕だけなのだ。他の若者――といっても僕よりも10以上上の兄ちゃん達だが――はみんな少し離れた町へと引っ越してしまった。そんなのもう何年も前のことだ。だから子どもなんている訳がない。……そう、いる訳がないのだ。
 なぜそんな当たり前のことを忘れていたのだろう。
 それもこうして地面に倒れ込むまで、明日からあの学校で小学生相手に授業すると思い込んでいたのだ。
 いるはすのない子ども相手に。
 だがいるはずもないのなら、この声の主は一体誰なのだろう?
 顔をあげてはいけないという教えを破ってゆっくりと首をひねる。
 すると僕の目に入って来たのは、タックルを決めたのだろう少年少女ではなく、最後の石と燃え盛る竹藪だった。
 いつの間に抜けたのか、出火元はどこなのか、そんなことを気にしている余裕なんてなかった。ただあの竹藪を抜けたことに安心した。そして力の抜けた足で何とか実家へと戻り着く。
 そして顔中に汗を滲ませた僕を心配そうに迎え入れてくれた両親と、僕の帰省にあわせてこっちまで来てくれていた兄ちゃんに学校での出来事を話した。
 ずっと大好きだった先生を悪く伝えるのに少し戸惑いもあったものの、これを誰かに話さなければずっと頭と胸の中から抜けてくれないだろう思ったのだ。すると三人ともが悲しそうな表情を浮かべ、そして僕の身体を抱きしめてくれた。
「怖かったなぁ」――と。
 そして僕の知らなかった過去のことを明かしてくれた。
 僕は小学校入学を迎える前日に神隠しにあい、そしてちょうど卒業する年に戻って来たらしい。僕がいなくなった場所であり見つかった場所でもあるのだと、父ちゃんが地図の上で「ここだ」と指した場所はあの竹藪がある場所だった。けれど父ちゃんたちの話では石どころか道すらないのだ。そしてつい先ほど僕が逃げてきた場所でもある、僕が6年間通い続けた学校なんて存在しないという。父ちゃんや母ちゃんが子どもだった頃から分校があるのは隣村で、この村の子ども達は昔から毎日そこまで通っていたのだという。
「あの場所はなんなの?」
 僕のあの6年間は神隠しにあっていたというのなら、つい先ほども存在したあの学校はなんなのだろう。
 再び神隠しにでもあったというのか?
 教えてくれと縋りつくと母ちゃんは優しく僕の頭を撫でた。
「私達にも分からないわ。けれどまた神様が賢治を返してくれて、本当に良かった……」
 そうか、あの子達が僕を母ちゃんたちの元に返してくれたのか。
 そう思うと自然と涙が頬を伝った。
 あの子達が誰なのか、僕は覚えてすらいない。
 けれどきっとあの2人はあの石に数えられた子ども達の中に含まれている子で、そして幼い頃に僕と遊んでくれた子だったのだろう。こんな薄情な僕の友達でいてくれているのかもしれない。
「ごめんね。そして、ありがとう」
 そう呟いて、保っているのがやっとであった意識を手放した。


 翌日、兄ちゃんと一緒にあの竹藪を確認しに向かった。そしてその光景を目にした僕と兄ちゃんは目をまあるく見開いた。
「このあたり全部が燃えているなんて……。なんで気付かなかったんだろう……」
 兄ちゃんは竹藪が燃えてしまっていることに驚いていた。
 けれど僕は違った。
「石、なくなってる……」
 100個もの石が一つもなくなっているのだ。
 それどころか、道があった形跡すらも残っていなかった。
 父ちゃん達の言う通り、学校どころか道すらなかったのだ。
 じゃあ今、あの子達はどこにいるのだろう?
 まだ神隠しにあっているというのか。
 子どもの姿のままで?
 それはあまりにも可哀想で、自分だけがここに立っていることが申し訳なくなる。
 だが僕にできることなんて何もない。ずっと忘れ続けて、そして思い出すことすらできない僕にできることなんて……。
 自分の無力さに呆れて、思わずその場に蹲ってしまう。けれど僕の視線に映った、新品の革靴が僕にも出来ることを教えてくれた。だから僕は自分の頬を強く叩いて立ち上がる。

 やれることならあるではないか――と。

 就職先が消えてしまった僕はあれから半年後、ようやく実家から少し離れた場所の学校の臨時教師としての職を見つけることが出来た。
 そして臨時教師として小学校に勤める一方で、この数十年間で県内行方不明になった子ども達の、中でも消えた当日の目撃情報がない子どもの情報を集めていった。神隠しにあっているのだろう100人全員を調べ上げるまでに5年もかかってしまった。けれど名簿と卒業証書を完成させることが出来た。お手製感まるだしで、字は綺麗ではない。けれどこれが今の僕の精一杯の字なのだ。あの学校にいた時の僕の字と比べれば幾分マシにはなっていることだし、我慢してもらうことにしよう。
 誤字がないことを確認してから、100枚もの卒業証書と一冊の名簿をお盆の上に乗せる。そしてそのお盆を手に、あの日必死の思いで逃げた、石が並べられていたあの場所を俯きながら100数えて歩く。
 先に何があるかなんてわからないけれど、自然と恐怖はなかった。あるのは緊張感だけだ。なにせこれから100人もの子ども達と会うのだ。何度も繰り返した名前を間違えて読み上げたりしないかと緊張してしまうのだ。
 けれどその緊張も彼らを前にすれば簡単に吹き飛んでしまう。
「ケンちゃん先生!」
「今から順番に卒業証書渡すから並んで~」
 僕を先生と呼んでくれている子ども達の顔はやはりぼやけたまま。けれど彼らは僕の友達で、お姉さんで、お兄さんで、そして生徒なのだ。
 この日のために作って来た卒業証書の束を朝礼台の上に置く。そして一番上の証書だけを手に取って、いい子に並んでくれた彼らへと向く。
「出席番号1番。相沢 佑香ちゃん」
 その名前を呼ぶと一人の子が元気よく空へと手を突き出す。するとその子の顔ははっきりと浮かびあがる。そのことに驚いて、僕は思わず目を見開いてしまった。けれど計画は続行する。なにせこれは彼らにとって初めての卒業式なのだから。
「卒業証書授与。よく頑張ったね」
「ありがとう、先生!」
 ひまわりのような笑顔を向けて佑香ちゃんは列へと戻っていく。
 そう、彼女は佑香ちゃんだ。
 顔が浮かび上がれば、自然と彼女との思い出も思い出してくる。
 九九がなかなか覚えられない僕のために休み時間に付き合ってくれた、優しいみんなのお姉さんだった。
 こうして思い出してみればなんであんなにお世話になった佑香ちゃんのことを忘れていたのか不思議で仕方がない。けれど忘れているのは彼女のことだけではないのだ。
 だから僕は待っている他の子ども達にも同じように卒業証書を渡していく。すると彼らの顔もまた佑香ちゃんの時と同じように浮かび上がってくる。
 その度に彼らとの思い出がよみがえっていく。

 リレーで転んでしまったこと。

 泥団子グランプリを開催したこと。

 全員が逆立ちを達成するまで半年もかかったこと。

 思い出せばまだまだいっぱいあって、一つまた一つと思い出す度に視界は涙でぼやけていく。それでも名前を呼び続けられるのは練習の賜物だと言える。
「出席番号100番。渡辺 太一くん」
 100番目の子どもの名前を呼び終えた僕の顔は涙と鼻水でグズグズになっていた。けれどここで終わりではない。まだ仕事残っているのだ。
 まっすぐとこちらを見据える子ども達に、彼らがずっと待っていたのだろう言葉を送る。
「みんな、卒業おめでとう!」
 名簿を胸に抱えながら最上級の笑みを彼らに向ける。在学期間はとても長かっただろうが、卒業証書授与だけの式はあっという間に終わってしまった。あっけないようだけれど、それ以外の思い出は他の子ども達の何倍、何十倍とあるのだ。それにこの子達が大きくなった時、この卒業式のことなんて覚えていなくても構わないと僕は思っている。この子達の人生にはまだまだ先があって、楽しいことがあれば自然と過去のことなんて忘れてしまう。だからこの式が彼らの記憶に残り続ける必要なんてない。先生の僕が願うのは、ただ彼らが健やかに育ってくれることだけだ。
 だから子ども達の卒業式はこれで終わり。けれどまだ、全てが終わった訳ではない。
 たった一人だけ、まだ卒業証書を渡していない人物がいる。
 辺りを見回してもその人が視界に映ることはないけれど、近く、それも校庭にいる僕らが見渡せる位置に隠れているのは確実だ。だって最後の一人は僕達の先生なのだから。
「先生。アキコ先生。いるんでしょう? こっち来て。先生の分も用意したんだから」
「賢治君……」
 物陰にずっと隠れていたアキコ先生はやっと顔を出してくれる。けれどこちらまでは足を運んでくれないようだ。みんなは前で卒業証書もらったというのに先生だけ後ろなんて許される訳がない。
 誰が許さないって、もちろん僕と子ども達だ。
「先生、こっちこっち」
 子ども達に人気の先生は卒業証書をもらって機嫌のいい生徒達の手によって前へと連れてこられる。
「みんな……」
「佐伯 アキコ先生。今まで僕達の先生でいてくれてありがとうございます。僕達は今日でここを卒業します。だから先生も一緒に卒業しましょう!」
 
 先生の名前を呼んで、やっと全てを思い出した今の僕ならわかる。
 先生はいつだって怒ると表情がなくなってしまうのだ。だからあの日、先生は卒業したのに、この学校からやっと抜け出すことが出来たのに、今度は教師として帰ってきてしまった僕のことを怒っていたのだ。
 
 先生の名前を知ったのは、子ども達のことを調べている時のことだった。
 
 30年前、遠足の途中に突如として消えてしまった40人の生徒と担任の先生がいたのだ。だが不思議なことにたった一人の死体も見つかっていないことからどこかで生きているのではないか、と思われているらしかった。だが子ども40人と大人1人、誰一人として見つからないはずがないのだ。かくれんぼするには人数が多すぎる。だから僕はこの子達が初めの神隠しの遭遇者だとあたりをつけた。そしてアキコ先生という人物の話を聞いてみれば、みんな口を揃えて『子どもが大好きな先生だった』と言うのだ。きっと彼女と一緒なら子ども達も寂しくないのだろう……とも。だからきっとこの先生が、と調べものを進めていったのだ。
 
 そしてそれは記憶が戻ったことによって確信へと変わった。
 
「先生はずっと僕達を守ってくれていたんですね」
「賢治君は昔からお友達思いのいい子だったから巻き込まないように、って思っていたのに……」
「助けてくれたのに、見捨てるなんて出来ないでしょう? それにヒントをもらったから」
「え?」
「先生のことを知っている人に聞いたんだ。先生は子ども達の名前を覚えるために下の名前に『君』とか『ちゃん』とかを付けて呼ぶんだって。なのに記憶の中の先生はみんなのことあだ名で呼んでいた。ケンちゃん、ゆうちゃん、たっくん、って。これだけだったら変わっただけかもしれないって思ったけど、でも先生は卒業式の日と、そして僕が戻ってきたあの日、僕のことを『賢治君』って呼んだでしょう? 卒業証書が呼び方の切り替え地点だなんて半信半疑だったけど、でもあってて良かった。これでみんな帰れる」
「そうね……。やっと、帰れるわ」
「先生達がここに来てから随分と時間が経ってしまったけれど、それでも……」
「それでも前を見て進みましょう。下ばっかり見ていたってつまらないわ!」
「先生ならそう言うと思った」
「だからみんなで帰りましょう。本当の我が家へ」
 
 学帽にランドセル、リュックサックに水筒とみんな持っているものはバラバラで、帰る場所だってみんな違う。
 けれど僕達はこの学校の卒業生だから、ここで過ごした時間と卒業の印を胸に抱いてあの道を真っ直ぐと進む。
 
 100人の子ども達と僕と先生はキッチリ100歩、声に出して数えて歪な石の上を進む。
「100」と唱えた子から順に目の前から消えていく。きっとみんな、自分の家へと帰ったのだろう。だから一番後ろに並んでいた僕は安心して大きな声で「100」と数えて最後の一歩を踏み出した。
 
 一瞬目の前が白くなり、その眩しさに思わず目を閉じてしまう。そして光に慣れた頃にゆっくりと目を開けばそこはあの竹やぶがあった場所だった。僕も帰ってきたのである。
 グルリと身体を反転させても、そこに石など並べられていない。それどころか道すらない。
 けれどそこはやはり僕にとっては小学生の6年間通った道で、小学校へと続く道なのだ。
 この道には子ども達を連れ去って閉じ込めてしまう子ども好きの神様がいるのかもしれない。それはきっと、子ども達の家族からしたら悪い神様でしかないけれど、僕にとっては大事な思い出をくれた神様でもあった。
 
「さようなら、神様」
 僕や先生、そして100人の子ども達がこの道を再び通ることはないだろう。だから最後に別れの挨拶だけはしておきたかったのだ。数秒間深く頭を下げ、ゆっくりと頭をあげる。そして今度こそ神様に背を向けて、子ども達と同じように自分の居場所へと帰るのだった。