付き合っていた頃のことを思い出していた。

 ドラマは終盤に差し掛かり、結婚式のシーンへと移る。ウェディングドレスを身にまとった春香が、相手役の男とキスをして永遠の愛を誓う。僕らが高校生の頃ベストセラーだった漫画『高校生の花嫁』が原作のこのドラマは驚異的な視聴率をたたき出した。

 春香は幼い頃から無常の世界に身を置いていた。世間に飽きられて、スキャンダルに潰されて、あるいは才能の限界を突きつけられて昨日まで隣にいた人が次々と消えていくのが芸能界だ。

 ドラマが終わると次はバラエティ番組の時間だ。春香が司会や他のゲストから口々におめでとうございますと祝われている。

「ありがとうございます。自分はとても幸せ者だと思います」

 マイクを持った春香は、とても幸せそうな顔をしていた。

「自分の一番の長所をあげるとするなら、人との縁に恵まれたところだと思います」

 ドラマや映画のDVDは手に入れやすいが、バラエティ番組の映像はなかなか手に入れづらい。録画しておいてよかった。春香の映っている映像はどんなものでも愛おしい。

「ほんと、酷い話だよね。こんなのってないよ」

 また、クラスのトークルームに新たなメッセージが投下されていた。一瞬目を離したすきに、過去の映像の振り返りからスタジオへと画面が切り替わる。

 黒い服を着た芸能人が次々と春香を語る。

「演技に一切の妥協をしないストイックな方でした。台本の解釈の違いで口論になったことも幾度となくありますが、彼女の姿勢は尊敬していました」

 僕と同い年くらいの女優がそう語った。

「言葉をとても大切にしている人でした。だから彼女の演技は重みがあったのだと思います」

 僕より少し若い俳優が語った。

「芝居の世界に生まれて、芝居の世界を生きて、芝居の世界に骨をうずめたとでもいうのでしょうか。女優になるために生まれてきたような、天性の才を持った方でした。本当に惜しい方を亡くしました」

 大御所らしき人が語った。彼の言葉を聞いて、スタジオにいる何人かが涙を流した。

 テロップには「折笠春香さんを偲んで」と書かれている。春香が十八歳の若さでこの世を去って、今日でちょうど五年になる。