「あなたは自分をどんな人間だと思いますか?」
「自分を一言で表すと何ですか?」

 就活でお決まりの質問をぶつけられるたび、胸が痛む。大学の卒業式を明後日に控えながら、内定のひとつもとれていない。一年留年したので五年間在学していたけれど、思い出のひとつもないので、自由参加の卒業式に出席するつもりもないけれど。

 三時間後に、もう一社面接がある。春先の寒さから逃れるため、ファミレスに入ってコーヒーを注文した。隣のテーブルにはカップルが座っていた。男の方が大きな声で注文をしている。

「すいませーん、クリームソーダふたつ!」

 クリームソーダ、その響きを聞いて彼女、折笠春香との戻らない日々を思い出す。

 上の空のまま受けた面接は散々だった。家に帰って、自室にこもる。僕を迎えてくれるのはかつての恋人の写真と埃を被った空っぽの金魚鉢。狭い部屋には不釣り合いな大画面高画質のテレビと、大量のDVD。

 ベッドに寝転んでスマートフォンを見る。高校時代のグループトークのポップアップ通知が来ていた。去年機種変更をしたが、ロック画面もホーム画面も待ち受けはずっと卒業式の日に彼女とふたりで撮った写真のままだ。

――私たち、別れよう。

 彼女にそう告げられて、明日でちょうど五年になる。