喉の奥から空気が漏れる。
白いはずの天井から、女体の上半身がコウモリのように逆さ向きに生えていた。
そろ、そろ、とミルクティ色の毛髪が下に向かって降りてきて亜子の鼻に触れそうになった。
褐色の額に、キレイなアーチ型を描いた茶色の眉。
バサバサと音がしそうなほど重ね着けされた漆黒のまつ毛が亜子の目の前まで迫ってくる。
シルバーのラメグリッターが施されたロングネイルが、亜子の肩を掴む。
不思議と触れられている感触がない。
天井からは上半身だけでなく、下半身もあらわれた。
亜子の肩を支点にして、そのまま、ぐるっと女体は回転し、床に足をおろした。
同じ制服だけど、スカート丈がやけに短い。
下着が見えそうなくらいのミニに、ダボダボと布が波打つ白のロングソックス。
靴はブラックのローファーだ。
「ヤバい、ヤバい」
亜子の頭の中の何かが早く逃げろと命令する。
第六感というやつだ。
あぁ、トイレに逃げ込みたい。
いや、ダメだ。ここがトイレだ。
亜子の歯がガチガチと小刻みに音を立てる。
ミニスカートの女は、スタスタと歩いて鏡の前に向かう。彼女がトイレの個室から出るときに、一瞬亜子の体とぶつかって、そのまますり抜けた気がしたけど、皮膚の感触も体温も感じることはできなかった。
「ヤバ、グロス取れちゃってるじゃん。ねぇ、グロス持ってない? できればヌーディベージュでパール入りのやつ」
亜子はガタつく歯を必死に噛みしめながら首を横に振る。
残念ながら亜子のポケットにはティントタイプのチェリー色のリップと、Jeyの曲を流し続けるスマホしか入っていない。
「そっか。ざんねーん。ん? てか、今あなた、首振った? アタシの声聞こえてる? 見えてるの?」
女は、身体の向きは鏡と平行を保ったまま、首から上だけ180度回転させた。
亜子は鉛のように重く感じる腕を持ち上げ、トイレットペーパーホルダーのすぐ上の壁に埋め込まれている非常用呼出ボタンを押そうとした。
しかし、焦る脳内とは裏腹に、指一本動かすことさえできない。
「うーん。今までリアルにアタシの姿見た人いなかったんだけどね。あなた、霊感とかあるの? もしくはアタシと波長が合うとか」
白いはずの天井から、女体の上半身がコウモリのように逆さ向きに生えていた。
そろ、そろ、とミルクティ色の毛髪が下に向かって降りてきて亜子の鼻に触れそうになった。
褐色の額に、キレイなアーチ型を描いた茶色の眉。
バサバサと音がしそうなほど重ね着けされた漆黒のまつ毛が亜子の目の前まで迫ってくる。
シルバーのラメグリッターが施されたロングネイルが、亜子の肩を掴む。
不思議と触れられている感触がない。
天井からは上半身だけでなく、下半身もあらわれた。
亜子の肩を支点にして、そのまま、ぐるっと女体は回転し、床に足をおろした。
同じ制服だけど、スカート丈がやけに短い。
下着が見えそうなくらいのミニに、ダボダボと布が波打つ白のロングソックス。
靴はブラックのローファーだ。
「ヤバい、ヤバい」
亜子の頭の中の何かが早く逃げろと命令する。
第六感というやつだ。
あぁ、トイレに逃げ込みたい。
いや、ダメだ。ここがトイレだ。
亜子の歯がガチガチと小刻みに音を立てる。
ミニスカートの女は、スタスタと歩いて鏡の前に向かう。彼女がトイレの個室から出るときに、一瞬亜子の体とぶつかって、そのまますり抜けた気がしたけど、皮膚の感触も体温も感じることはできなかった。
「ヤバ、グロス取れちゃってるじゃん。ねぇ、グロス持ってない? できればヌーディベージュでパール入りのやつ」
亜子はガタつく歯を必死に噛みしめながら首を横に振る。
残念ながら亜子のポケットにはティントタイプのチェリー色のリップと、Jeyの曲を流し続けるスマホしか入っていない。
「そっか。ざんねーん。ん? てか、今あなた、首振った? アタシの声聞こえてる? 見えてるの?」
女は、身体の向きは鏡と平行を保ったまま、首から上だけ180度回転させた。
亜子は鉛のように重く感じる腕を持ち上げ、トイレットペーパーホルダーのすぐ上の壁に埋め込まれている非常用呼出ボタンを押そうとした。
しかし、焦る脳内とは裏腹に、指一本動かすことさえできない。
「うーん。今までリアルにアタシの姿見た人いなかったんだけどね。あなた、霊感とかあるの? もしくはアタシと波長が合うとか」