いつものトイレ、手前から3番目の小さな部屋に入り込む。
さすが授業中。
トイレには亜子一人だ。
せっかくだから、用を足す。
シングルのトイレットペーパーに手を伸ばして、ガサガサした再生紙をくるくると手に巻きつけた。
トイレにいる時間は、本当にほっとできる。
高校生になった今は、ただ単にトイレで気持ちを落ち着かせるだけでなく、スマホを持ち込んで、音楽を聞いたり、ネット漫画を読んだりして気晴らしをする技を身に着けた。
ポケットからスマホを取り出して、音符マークのアイコンをタップする。
お目当てのアーティスト、Jeyが現れるまでスクロールして、『些細な愛うた』で指を滑らすのをやめた。リピート再生ボタンを押すとJeyのやや擦れた低めのボイスとドラムの音がトイレに響く。
Jeyの新曲『些細な愛うた』は2000年頃に流行った曲のカバーだ。
先週、休み時間に玲菜と聴いていたとき。
「うわ、懐かしい!」
そう言って、先生は亜子の肩越しにスマホをのぞき込んだ。
突然の至近距離に、亜子は心臓が跳ね上がった。彼のたゆんだシャツが亜子の頬とすれすれにすれ違い、思わず息が止まる。
「これ、俺が高校生のとき流行ったんだよね。元曲、モンジェだよ! 俺、昔から大好きでさ
ー。……って、今の子達は知らないか。昔のバンド」
「今日からそのモンジェさんとやらの曲、全部聞きます」と亜子は心の中で呟く。
「ちょっとバラードっぽくアレンジされてるけど、オリジナルはもっとノリノリな曲だったんだよなぁ。文化祭の時期によく流れてたよ」
ふんふん、とご機嫌に鼻歌を歌いながら、ヤマテツは亜子と一緒に、亜子のスマホで、『些細な愛うた』を聴いた。
それ以来、Jeyの新曲が亜子の一番のお気に入りになった。この曲を聴いていると、ヤマテツとつながっている気がするのだ。
「うわっ。その曲、モンジェじゃん!」
突然ハツラツとした女の子の声がした。
慌ててパンツを履き、スマホをポケットに滑り込ませる。
トイレの鍵を開けてそっと外を見て、左右に視線を動かしたあと、ゆっくりと顔を上げた。
「ひっ」
さすが授業中。
トイレには亜子一人だ。
せっかくだから、用を足す。
シングルのトイレットペーパーに手を伸ばして、ガサガサした再生紙をくるくると手に巻きつけた。
トイレにいる時間は、本当にほっとできる。
高校生になった今は、ただ単にトイレで気持ちを落ち着かせるだけでなく、スマホを持ち込んで、音楽を聞いたり、ネット漫画を読んだりして気晴らしをする技を身に着けた。
ポケットからスマホを取り出して、音符マークのアイコンをタップする。
お目当てのアーティスト、Jeyが現れるまでスクロールして、『些細な愛うた』で指を滑らすのをやめた。リピート再生ボタンを押すとJeyのやや擦れた低めのボイスとドラムの音がトイレに響く。
Jeyの新曲『些細な愛うた』は2000年頃に流行った曲のカバーだ。
先週、休み時間に玲菜と聴いていたとき。
「うわ、懐かしい!」
そう言って、先生は亜子の肩越しにスマホをのぞき込んだ。
突然の至近距離に、亜子は心臓が跳ね上がった。彼のたゆんだシャツが亜子の頬とすれすれにすれ違い、思わず息が止まる。
「これ、俺が高校生のとき流行ったんだよね。元曲、モンジェだよ! 俺、昔から大好きでさ
ー。……って、今の子達は知らないか。昔のバンド」
「今日からそのモンジェさんとやらの曲、全部聞きます」と亜子は心の中で呟く。
「ちょっとバラードっぽくアレンジされてるけど、オリジナルはもっとノリノリな曲だったんだよなぁ。文化祭の時期によく流れてたよ」
ふんふん、とご機嫌に鼻歌を歌いながら、ヤマテツは亜子と一緒に、亜子のスマホで、『些細な愛うた』を聴いた。
それ以来、Jeyの新曲が亜子の一番のお気に入りになった。この曲を聴いていると、ヤマテツとつながっている気がするのだ。
「うわっ。その曲、モンジェじゃん!」
突然ハツラツとした女の子の声がした。
慌ててパンツを履き、スマホをポケットに滑り込ませる。
トイレの鍵を開けてそっと外を見て、左右に視線を動かしたあと、ゆっくりと顔を上げた。
「ひっ」