1 いつまでも

「……ねぇ」

「ん?なぁに?」
「あなたって、なんであたしと付き合ってるの?」

「え?」
あまりにも突拍子すぎて、なんだか変な声で変な反応をしてしまった。

「だから……どうしてあたしみたいな女の恋人になったのかって聞いてるの」

どうしてって聞かれても……
それに対する答えなんて多分一つしかない。

「……好きだから、じゃない?」

なんてことはない単純な話。ボクは彼女に恋している。
だからこそ彼女の恋人というスゴク特別な立場にいることができている。
それ以の理由なんてない。

「そういうことじゃなくて……あたしのどこが好きなの?」

口に出した後でなんだか恥ずかしいことを直球ストレートに言ってしまったと少しだけ恥ずかしい気持ち位になっていると、彼女は少しだけ呆れた声で、でも表情はたいして変えずにさっきの質問に対して深堀してきた。
2人キリだからかもしれないけれど、よくこんなに恥ずかしいことを堂々と聞けるなと少しだけ尊敬してしまう。
でも、どうしてそんなことをワザワザ聞いてくるのだろうか。

「どこって……」

「ほら……あたしよりも美人でイイ女なんてたくさんいるでしょ?なのになんであたしなのかなーって」


そんなの……決まってるじゃないか。

「クララが好きだから……かな」

うわ……本当の事なのに彼女の目を見て口に出してみると意外と恥ずかしい。

「……それじゃあ答えになってないわよ」

少しだけ間があいたのは、やはり照れているからだろうか。
彼女でも照れることってあるんだ。少し意外だ。
普段はそんなそぶりを見せないというか、あんまり感情を表にだしていない……あるいは適当に流している感じがするからだろうか。
でも困った。
これ以上なんて返していいのかわからない。
でも、彼女の部屋で彼女が無言でこちらから目を離さない。
そんななんともいえない沈黙が流れる空間が続くのはさすがに気まずいしなんだか彼女にも申し訳がない。

「……言葉にするのが難しい。それくらい好きってことかな?」

「もう……」

彼女は目をそらしてそのまま窓の方を向いたかと思えば、座っていたベッドにバタンと横になってしまった。
顔……赤くなってるのかな。
折角こんな恥ずかしい質問に頑張って答えたのに。「あたしもよ」とか返してくれてもいいんじゃないかと思ったけど、彼女には伝えないでおいた。
なんだか野暮な気がして。
でもなぁ……
「あたしよりもイイ女」かぁ……。

「……別に、他の人のことなんて気にしなくていいんじゃない?」

「え?」

あまりにも突拍子なくこの沈黙を破ってしまったからか彼女が体ごとこちらに向けて変な声を出した。顔色はいつもとそんなに変わってない。全然赤くなってない。

「ほら……他の人と比べ始めたらキリがないじゃん。別にクララはクララのままでいいんじゃないかな」

「でも……性格でも体でも、もっとステキな人がいるのは事実じゃない?あたしよりも優しい人だってたくさんいるし、その……スタイルがイイ子だっていっぱいいるじゃない」

彼女の言いたいことは分かるし確かにそうだと思う。
彼女よりも背が高くてスラっとしてる女の人なんてたくさんいるし、性格までは分からないけれどきっと彼女よりも人づきあいがうまいというか恋愛が上手な女の人もたくさんいるだろう。
でも……だからといってそういう人たちがいいのか。もちろんそれは違う。

「ボクはさ、ありのままのキミのことを好きになったんだよ。だから……そういうことだから」

なんだか今度はこっちが恥ずかしくなってきた。
思わず途中から目をそらしてしまった。
ベッドの真横にある彼女の机の上にはもう何も置かれていない。
今までは教科書とか参考書がずらっと並んでたのに。

「……フフフ」

「ん?」

「クリスはカワイイなぁーって」

ボクの目をまっすぐに見つめてニタニタと笑っている。
急にそんなことを言われても正直なんて返していいかわかんない。
ベッドに横になっているから寄りかかっているボクとはちょうど目が合う。
少しだけドキドキする。

「……ボクのどこがカワイイっていうの?」

恐らく彼女はボクがそんなようなことを聞くと分かっていたんだろう。
大して間を空けずに教えてくれた。


「そうやって顔を真っ赤にして、素直に気持ちを伝えている姿よ。かわいい。」
まじまじと見つめられながら女の人にカワイイなんて言われると、正直照れるし別に悪い気分はしない。
むしろなんだかドキドキする。
でも人がまじめに話している様子をカワイイだなんて。
彼女の完成は少し変わっているのか。それとも女の人ってみんなこんな感じなんだろうか。
なんかよくわかんないや。

「……せめてカッコイイっていってほしかったなぁ」

「ふふふ。それはできない相談ね……」

「どうして?」

「だって、あたしはそんなクリスに惚れてるんだもの」

サッカー選手が試合終了間際にゴールを決めたような、あるいはチェスの最中にチェックメイトとなる手を打った時のような顔をしている。
やられた。完敗だ。
言われてから体の温度がジワジワと上がっているような感じがする。
多分だけれど今ボクの顔は赤くなっているだろう。
こんな姿彼女以外には見られたくない。

そこからは、しばらく2人とも何も話さなかった。
ただ、その瞬間が1番好きだったりする。
なんというか……とっても美しくて尊い時間に感じる。

「いつまでもこんな瞬間が続けばいいのにね」

彼女の言いたいことはすごくよくわかる。ボクもそう思わないと言ったらそれはウソになってしまう。でも多分それはよくないことなんじゃないかとも思う。

「でも……永遠なんてこの世界には存在していない。だから世界は美しいんじゃないかな?」