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音楽科の要先生は、かっこよくてさわやかで優しくて。声楽が専門だから声までイケメンで。
音楽選択をしている女子からはもちろん、音楽の授業を直接受けていない生徒からも人気のある先生だった。
例に漏れず、私も要先生に憧れる女子のひとりだったのだけど……。先生への好意を積極的にアピールできるようなタイプではなかった。
音楽の授業中、他の生徒たちに混じって、ピアノを弾く先生の横顔に熱のこもったまなざしを向ける。廊下ですれ違えば、こっそりと目で追いかける。
そんな一方的な片想いをしていた私に要先生が声をかけてくれたのは、ほんとうに、奇跡みたいな偶然だったと思う。
高校三年生の十二月。指定校推薦で大学への進学が決まった私が職員室で担任の先生と話していると、たまたま要先生が通りかかった。
「星名、推薦で合格したんだ? おめでとう」
音楽の授業中以外では個人的に話しかけられる機会の少なかった要先生からのお祝いの言葉。それに、心臓が止まるかと思うくらいドキッとした。
「あ、ありがとうございます……」
顔を赤くしながら頭を下げると、要先生が「そうだ」と、思い出したようにつぶやく。