「大丈夫? 気を付けて」
片眉を下げてふっと笑うところも、そのときに口元に手を当てるところも、私が好きな要先生の仕草だ。
「星名は毎日熱心に練習にきて、ほんとうにマジメだな。そんなに頑張らなくてもいいよ。もう、ほとんど弾けてるんだから」
「そんなことないです。まだ、うまく弾けなくて、先生に教えてもらわなきゃいけないところがたくさんある。それに、グランドピアノで弾く感覚って、やっぱり家の電子ピアノとは違うから」
「そう?」
立ち上がった要先生が、私にピアノの椅子を譲ってくれる。
「じゃあ、どうぞ」
優しく微笑みかけられて、心臓がドクンと跳ねた。
伝えるなら、今しかない。
ほんとうは卒業式のあとに伝えようと思っていたけれど、今を逃せば後悔するかもしれない。
不慮の事故で命を落としてしまった向井先生みたいに、明日がどうなるかなんて誰にもわからないのだ。私も、要先生も。
「好きです……、先生」
私からの突然の告白に、要先生が綺麗な二重の目を大きく見開いた。