ぽたぽたとこぼれ落ちる涙が、上履きを濡らす。

 拭っても拭っても止まらない涙に困っていると、沖田くんが私にハンカチを差し出してきた。

 泣き顔のまま上を向くと、沖田くんが少し不安そうに眉を寄せる。

「あ、大丈夫。これ、ちゃんと綺麗なやつだから」
「……うん」

 ふっと泣き笑いしてハンカチを受け取ると、沖田くんが恥ずかしそうに目を伏せた。

 貸してもらったハンカチを目の上にあてていると、

「卒業式の星名さんの演奏すごくよかった。向井先生も褒めてたんじゃない?」

 沖田くんが、また泣かせることを言ってくる。

「……うん。要先生も、よかったって……」
「やっぱり。毎日、練習に来てたんだもんね。俺も歌いながら、星名のピアノに感動してちょっと泣きそうになった」
「……うん」

 ハンカチを目に押し付けながら頷くと、沖田くんの手が私の頭にそっと触れる。

「頑張ったね、星名さん」

 耳に届いた沖田くんの声は、やさしくて、とてもあたたかい。

「……、ありがとう」
 
 涙声でつぶやく私の耳に、ふと要先生の言葉がよみがえる。

『これからの君の未来が、希望に満ちたものになることを願ってる』

 目を閉じると、要先生の残像が優しくふっと笑いかけてきた。

 好きです、先生。大好きでした……。

 だけど──、さようなら。

Fin.