めったに使われることのないクラスの緊急連絡網で、音楽の向井要先生の訃報が入ったのは、三週間前の雪の夜。

 母から要先生が交通事故で亡くなったと言われて、信じられなかった。

 だってその日、私は夕方まで、音楽室で要先生にピアノを聞いてもらっていた。

 私に指導する要先生の笑顔も声も優しくて。先生がみせる仕草のひとつひとつにドキドキして。

『雪だから、帰り道気を付けて。また明日』

 次の日も練習をみてもらう約束をして、音楽室を出た。

 気を付けてって言ったのは要先生なのに……。また明日って約束したのに、どうして……。

 要先生の死をどうしても受け入れられなくて音楽室に行ったら、そこに先生がいた。

 やっぱり、訃報のニュースは嘘だった。ひどく寝覚めの悪い夢だったんだ……。

 だけど、音楽室の冷たい空気や要先生の雰囲気から、先生の訃報が嘘でも夢でもないことにすぐに気付いた。

 どうして、要先生が私の前にだけ現れたのかはわからない。

 要先生が最後に「また明日」と未来の約束をした相手が私だったから――?

 卒業式までピアノ伴奏を指導すると約束したから――?

 理由なんてわからないけど、私の前に落ちてきた奇跡みたいな偶然を絶対に手放してはいけないと思った。

 私は要先生に密かにずっと恋してたから。

 だけど……。

 要先生は、私との卒業までの約束を果たして遠くへ旅立ってしまった。

 ここへ来ても、要先生にはもう会えない。

 もう二度と……。