「どうしてここに……?」
涙に濡れた頬を拭いながら顔をそらすと、沖田くんが躊躇いがちに口を開く。
「いや、ちょっと……。星名さんのことが気になって……」
「私が……?」
「……うん。向井先生とお別れしたんでしょ?」
訊ねられて、心臓がドクンと跳ねた。
「……、知ってたの?」
音楽室にいる先生のことが見えていたのは、私だけだと思っていたのに……。
ドキドキしながら聞き返すと、沖田くんが「なんとなく……?」と小さく首をかしげた。
「向井先生が亡くなった次の日、教室の前で星名さんと会ったでしょ。そのときの星名さん、すごく青ざめて今にも倒れそうだったから、大丈夫かなって気になっちゃって。途中で廊下を引き返して追いかけたんだ。そのとき、誰もいない音楽室で星名さんが告白してるのを聞いちゃった」
「え……」
「もちろん、わざとじゃないよ。ドア開いてて。気付いてなかったでしょ。俺には何も見えなかったけど、あのとき、星名さんの前には向井先生がいたんだよね?」
一度は止まった涙が込み上げてきて、ブレザーの袖で涙を隠す。顔を隠しながら頷くと、沖田くんが「そっか」とつぶやいた。