卒業式の日は、暖かく穏やかな春らしい晴天だった。

 受験でしばらく学校に来ていなかったから、クラスメートたちと顔を合わせるのはひさしぶりだ。

 仲良しの友達やそうでもないクラスメートと、最後だからとわいわい騒いだあと、ばっちり正装した担任の先生に連れられて体育館へと向かう。

 体育館では、すでに保護者や在校生が席についていて、三月までの非常勤として入ってきた音楽の先生のピアノ演奏に合わせて、卒業生が入場する。

 一度も授業を受けたことのない音楽の先生の弾く『威風堂々』を聞いて歩きながら、この曲を弾くのが要先生だったらよかったのにと強く思った。

 私たち卒業生が席に着くと、開式の言葉で式が始まる。

 校歌斉唱、卒業証書授与、校長先生の祝辞……と。粛々とした雰囲気の中で、卒業式が進行していく。

 在校生からのお祝いの言葉が終わり、司会の先生がマイクの前に立つ。

「卒業生よりお別れの言葉」

 司会の先生のピリッと引き締まった声が体育館に響き、卒業生代表の沖田くんが席を立つ。

 背筋を伸ばして、マイクの前へと颯爽と歩いていく沖田くん。その背中をしばらく見つめてから、私も静かにピアノの前へと移動した。

 私たち卒業生が『旅立ちの日へ』を歌うのは、沖田くんの答辞のあとなのだ。