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音楽室を出て、昇降口で靴を履き替えていると、偶然、沖田くんに出会った。
「星名さん、今日もピアノの練習に来てたの?」
「……うん」
「そっか。もしかして、毎日音楽室でピアノ弾いてた?」
「そうだね。ほとんど毎日……」
「やっぱり、星名さんだったんだね」
「やっぱり、って?」
「いや。こないだひさしぶりに部活に顔出したら、二年の後輩が、最近、音楽の授業がないときでも音楽室からピアノの音が聞こえてくる怪奇現象起きてるって騒いでたから。そんなわけないのにね」
くくっと笑って話す沖田くんに、私は曖昧に微笑み返す。
「沖田くんは、今日は部活に顔出してたの?」
制服姿の沖田くんに訊ねると、彼がわずかに眉を寄せて首を振る。
「実は進路の報告に来たときに、先生に卒業生代表として答辞を読んでほしいって頼まれちゃって……。ぎりぎりだけど、最終の原稿を見てもらってた」
「そうだったんだ……。沖田くん、頭いいもんね」
「いや。俺が、三年一組の出席番号一番だったからじゃない? なんでうちのクラス、安藤とか井上とかあ行の早めの名字のやついないの?」
私と一緒に昇降口を出て歩き出した沖田くんが、不服そうに口を尖らせる。その横顔を見て思わずふっと笑うと、沖田くんが私を見つめて頬を緩めた。