「星名。これは、契約違反」

 要先生の手の冷たさと拒絶の言葉が、胸をチクリと刺す。

「どうしてですか?」
「どうしても。こんなことしても、がっかりするだけだよ」
「がっかりなんてしません。私、先生が好きだから……」
「付き合うって何するのって聞いたとき、音楽室で話したりピアノを聞いてもらえるだけでいいって言ったのは星名だよね。俺は、その約束で卒業まで付き合うって決めたんだ。だから、それ以上のことはできない」

 要先生が、私の目をまっすぐに見つめてそう告げる。

 どれだけ駄々をこねて泣き喚いても、要先生は最初に約束した以上のことを私に許してくれないんだろう。

 だから、私はもう、胸の中にある気持ちを言葉で伝えることしかできない。

「好きです、先生……」
「ありがとう」

 告白へのお決まりの定型文。要先生の口から紡がれる言葉に、堪えきれずに涙が溢れた。