「明日の卒業式が終わったあと、もう一度会えますよね?」
「……たぶんね」
要先生の曖昧な笑顔が、私を不安にさせた。
このままじゃ、卒業なんてできない。どうして、明日が卒業式なんだろう……。
高校生でいられる猶予があと一年でも二年でもあれば、私はまだ先生と一緒にいられたのだろうか。
「卒業式のあとは、絶対に音楽室にいてください。約束してください。私、必ず会いに来ます」
ピアノの椅子に膝立ちになると、要先生と目線の高さが同じになる。
苦笑いで首をかしげる要先生は、困った顔もかっこよくて。やっぱり、すごく好きだと思った。
今まで好きになった誰よりも……。
「要先生。私が先生のカノジョでいられる期間、卒業後も延長できないですか……?」
ダメ元でわがままを言ったら、要先生がますます困り顔になる。
「……できないよ」
「絶対に?」
「絶対に……」
「その理由は、単純に私が生徒だからってことではですよね……?」
もしそれだけが理由なら、要先生は「卒業まで付き合う」なんて言わなかったはずだから。
「好きです、先生……」
もう何度伝えてきたかもわからない、「好き」の言葉を口にする。それから、椅子の背もたれを握りしめると要先生のほうに身を乗り出した。
「ありがとう」と、いつもの告白への定型文が返ってくる前に唇を塞いでしまおうとしたら、要先生が近付いてきた私の口に手をあてる。