「ピアノ伴奏の練習に来てるんだよな。熱心なのはいいけど、そろそろ帰れよ」
「はい」

 古川先生は、放課後の校舎の見回りに来たらしい。私に声をかけると、音楽室のドアを開けっ放したまま去って行く。

 それにしても、音楽室の外に話し声が聞こえていたなんて……。

 要先生への告白が聞かれていたら気まずいな。私が手のひらで口元を押さえると、要先生がククッと笑う。

「笑い事じゃないですよ、先生。もう少しで古川先生に聞かれるところでした」
「危なかったね」

 いたずらっぽく目を細める要先生。彼と共有している秘密に、胸がドキドキと鳴る。

 やっぱり、もう少し先生と一緒にいたい。だけど……。

「……帰らなきゃですね。また古川先生に注意されちゃう」
「うん、また明日おいで」

 要先生が、私の髪をふわりと撫でる。頭の上を掠める冷たい手の温度に、心臓がきゅっとなる。

「また明日、会いに来ます……」

 要先生の言葉に、私は今度こそ素直に頷いた。