「先生がキスしてくれたらおとなしく帰ります」

 無茶な要求をする私に、案の定、要先生が困った顔をした。

「星名は、音楽室で話したり、ピアノを聞いてもらえればいいんじゃなかったっけ」
「そうですけど……。やっぱり、少しくらいは私が先生のカノジョだって思えるように態度で示してほしいなって……」
「わがままだな」
「だって、卒業まであと少しだから。私が先生と一緒にいられるのは、ほんとうに卒業までですか」

 ふっと軽く笑う要先生を、まっすぐに見つめる。

「……そうだよ」

 要先生は私から微妙に視線をそらすと、小さく頷いた。

「どうしても?」
「どうしても……」

 私がどんなに駄々をこねても、要先生は卒業までの期限を伸ばしてくれそうにない。

 私はまだまだ要先生と一緒にいたいのに。タイムリミットは着々と迫ってくる。

「私はずっと先生のことが好きです。卒業して、一緒にいられなくなっても……」
「ありがとう。でも、ずっとなんてないよ。だって星名は――」

 要先生が切なげに微笑んだとき、がらっと音楽室のドアが開く。

「何か話し声がすると思ったら、星名か」

 振り向くと、そこにいたのは私のクラスの担任の古川先生だった。