「そろそろ帰る?」

 要先生に聞かれて、窓の外に目を向ける。まだ帰りたくはないけれど、外はだいぶ暗くなっていた。

「もう少し……」
「また明日おいで」

 渋る私を、要先生がなだめる。

 卒業まで付き合うと約束してくれてから、要先生は私にやさしい。

 だけど、私が毎日音楽室に会いに来ても特に嬉しそうじゃないし、私が帰るときもべつに淋しそうじゃない。

 要先生に会えたら嬉しくなるのも、帰るのが淋しいのも私だけだ。

「早く帰らないとお家の人も心配するよ」

 頭をふわっと撫でてくれる要先生の言葉は、付き合っている恋人にかける言葉ではなく、一生徒を心配してかける言葉だ。

 子ども扱いしてくる要先生をじとっと見上げる。

 要先生が毎日私といてくれるのは、私がしつこいからだ。わかっているけど、期間限定とはいえいちおう付き合ってるんだから、少しくらいは私を恋人扱いしてほしい。