高校までは、自転車で十五分。ふだんは自転車通学だけど、今日は雪だから徒歩で学校に向かう。

 学校に着くと、すでに一時間目の授業が始まっていて、昇降口も廊下もとても静かだった。

 保健室のある一階の廊下を通って、階段を三階まで上がる。三年生の教室階でもある三階は、人気がなくて特に静かだ。

 三年生は、大学受験を控えて一月から自由登校になっている。だから、よほどの用事がない限り、後期の後半はみんな学校に来ないのだ。

 三階の廊下を音楽室に向かって歩いていると、誰もいないはずの教室から男子生徒がひとり出てきた。

「あれ、星名(ほしな)さん?」

 私を指さして首をかしげたのは、同じクラスの沖田(おきた)くんだった。

「お、はよう……。何してるの……?」
「おはよ。進路決まったから、報告。ついでに、教室に置きっぱにしてたもの取りに来た」
「そうなんだ。おめでとう」
「星名さんは?」
「私は……、音楽室でピアノの練習……」

 私が答えると、沖田くんの表情がくもった。

「そ、っか。星名さん、卒業式で合唱のピアノ伴奏するんだっけ」
「そうだよ」
「頑張ってね」
「ありがとう」

 薄く微笑んで去ろうとすると、

「星名さん!」

 沖田くんが私を呼び止めた。