「卒業式の合唱、先生が伴奏を弾けばいいのに」
「いや。卒業式のときのピアノ伴奏は、代々、その年の卒業生に頼んでるから」
「へえ。じゃあ、代々のピアノ伴奏者にも私にしてくれたみたいな指導をしたんですか?」
「まあ、そうだね」
「ふーん……」

 なんだかあまりおもしろくなかった。

 告白をした日から毎日、要先生は音楽室で私のことを待っていてくれる。

 だけど、要先生にとって、私一人が特別なわけじゃない。

「何怒ってるの?」
「べつに怒ってませんよ。次は私が練習するので、変わってもらっていいですか?」

 椅子を空けてくれた要先生と代わって、ピアノの前に座る。

「今度は先生が歌ってください」

 鍵盤の上に手を置いて言うと、要先生が「えー」と顔を顰めた。

「先生が私と付き合ってくれるのは、卒業までなんですよね? だったら、カノジョでいられるあいだに先生の歌が聞きたいです」
「俺は……、まあまあ、うまいよ」
「……知ってます」

 いたずらっぽく目を細める要先生を横目に見ながら答える。