私が廊下に出ると、要先生がピアノを弾き始める。 どことなく物悲しい、けれど繊細な旋律で奏でられる冒頭。モーツァルトの『レクイエム』 昨日の向井先生の告別式の会場では、葬儀が始まる前にBGMとして流れていた。 要先生のピアノの音が、昨日の悲しくて淋しい気持ちを思い起こさせる。 音楽室のドアに背中をつけて要先生の弾く『レクイエム』を聴きながら、今頃少し泣きそうになる。 じわりと目尻に浮かんだ涙をぬぐって、パシリと軽く頬を叩くと、私は速足でコンビニに向かった。