「ここは3番じゃなくて2番で弾かないと」

 要先生の手が私の手の上から鍵盤を鳴らしてお手本を見せる。

「星名の悪いクセは、楽譜の指番号とときどき無視して我流で弾いちゃうところ。初めのほうでも言ったけど、意識してないと我流になっちゃうんだよね。だから、しっかり意識して弾いてみて」

 私の隣に立って話す要先生の手は、まだ私の手に重なっている。私の中でくすぶっていたモヤモヤした気持ちは、要先生のアドバイスに流されてしまう。

「好きです、先生……」

 指が細くて綺麗な要先生の手。それを見つめてつぶやくと、先生が重ねていた手をそっと離した。

「……、ありがとう」

 私の「好き」の言葉に、先生はただ「ありがとう」としか返してくれない。

 私と先生は卒業までに期間限定の恋人同士で、私と先生の気持ちはきっと同じじゃないからだ。

 だけど、私は何度でも伝えなければいけない。私の声で、言葉で、要先生に届けられるうちに――。