告別式には、うちの高校の先生や生徒が大勢参加していた。向井先生は生徒に慕われているいい先生だったから、参列している生徒たちのほとんどが目を赤くして泣いていた。
ふだんは無表情な校長先生も、厳しいことで有名な生徒指導の先生も、お焼香の列に並びながらハンカチで目元を拭いていた。
祭壇には、爽やかな笑顔を浮かべた向井先生の遺影が飾られていて。湿っぽい葬儀場の雰囲気にフツリアイだった。
つい最近まで、ふつうに動いて話していた向井先生が、もういない。胸の中にぽっかり穴が開いたような不思議な気持ちがした。すごく悲しくて、喉の奥が苦しいのに、私は告別式で上手に泣けなかった。そのときの感じが、今日もまだしっかりと残っているのだ。
音楽室にピアノを弾きに来れば、胸に残るモヤモヤとした気持ちがなくなるかと思ったけれど、なかなかすっきりとは消えてくれない。
「先生の言うとおり、今日はちょっと心ここにあらずです。昨日は告別式に出てきたので」
「そうだったね……」
「先生の顔が見てピアノを弾いたら、心も晴れるかなって思ったんですけど……。同じところで間違えてばかりで、全然うまくいきません……」
「……さっきから見てたけど、星名が同じところで間違えてばかりなのは、正しい指番号で弾いてないからだと思う」
要先生が、うなだれる私の手にふわりと軽く手をのせる。手の甲に感じた要先生の冷たい手の温度に、ドクンと胸が鳴る。