「星名、大学決まったなら、卒業式の合唱のピアノ伴奏やらない?」
「私が、ですか……?」
「うん。二年のときの音楽の課題発表で弾いてたよね、ピアノ。あのときから、いい音を鳴らす子だなって気になってたんだ」
「でも私、ピアノを習ってたのは中学生までで今はたまにしか弾いてなくて…....」
「たまにしか触ってなくて、あれだけ弾けたら充分だよ」
「私でいいんですか……?」
「星名が良ければ頼みたい。引き受けてくれるなら、卒業式まで、弾き方の指導はするよ」
「ほんとうですか?」
「もちろん、約束する」

 要先生に優しく微笑みかけられて、断る理由なんてなかった。こんなの、断ったらバカだ。

 要先生は私に声をかけてくれたけど、もしかしたら、少しピアノが弾ければ、卒業式の伴奏者なんて誰でもよかったのかもしれない。それでも、私が選ばれた。

 少しでもピアノが弾けて良かった。あのときほど、そう思ったことはない。そして、たぶん、これからも。