窓を開けると、数センチの雪が積もっていた。道路に積もった雪の上には、車が通った轍ができている。
しばらくそれをぼんやりと見つめてから、私は制服に着替えた。
コートを着てマフラーを巻くと、部屋を出て、一気に階段を駆け下りる。
スクールバッグの中には財布とスマホとピアノの楽譜。それさえ入っていれば大丈夫。
玄関でカバンの中身を確かめてから、少し汚れたローファーに足を通す。そのまま無言で家を出ようとすると、気付いた母が、リビングから顔を出した。
「どこ行くの?」
「学校……、ピアノの練習……」
「……今日も?」
行き先を告げた私を、母が心配そうに見てくる。
今日も……、じゃない。今日は、行かないといけない。
先生が待っているから。
「いってきます」
「いってらっしゃい。気をつけてね」
玄関のドアが閉まる直前、背中から母の声がした。