席が隣になって一週間ほどが経つけど今まで会話なんて一切なかったじゃん。
目が合うことだってほとんどなかったのに。
そんなにわたしがボーッとしてしまっていたのだろうか。

突然のことに驚きが隠せず、元々集中できていなかった授業が余計に耳に入ってこなかった。

どういう心境の変化なの?

滝沢くんは、見た目は派手なのに声は妙な落ち着いていて世間ではきっと“イケボ”という類に入ると思う。


「あ、ありがとう」


一応、お礼を言うけれど滝沢くんはそんな私の声が聴こえているはずなのに返事は返ってこなかった。

まあ、返事が返ってこない方が好都合なんだけどね。
あんまり誰とも話したくないし……。

私はクラスであんまり目立つ方でない。どちらかと言えば、教室の隅っこにいるようなタイプ。
つまりは滝沢くんとは真逆だということ。

だって、私は親友が一人いるだけで他の人とは接点すらないもん。
別にそれでいい。大切なものは少ない方が失った時の悲しみが少ないのだから。


「滝沢くん、ここの問題答えてくれる?」

「えー、俺ですか?まあ、こんなの俺からしたら余裕のよっちゃんですねー」


ポケットに左手を突っ込みながらガタッと椅子から立ち上がると黒板の方へと歩みを進めた。

先生に回答を当てられても、嫌な顔なんて一つもせずにへらりと笑う滝沢くん。
いつも明るくて太陽みたいな眩しい笑顔で笑っている印象がある。

彼のような明るい笑顔は、今の私には目を背けたくなるほど眩しすぎるのだ。

クラスのみんなから『ひゅー!快人、行け行け!』なんて、まるで体育大会のように盛り上がっている教室。
たかが、一人の生徒が黒板に回答を書くだけだというのに。