心配をかけないように忘れたフリをすればいい……。
何も無かったかのように、彼の存在を消すように。
「ねぇ、カイくん」
「ん?」
「私と付き合って」
これしか方法がないと思ったんだ。
昔の恋愛を癒すのは新しい恋だと聞いたことがあるし。
カイくんの気持ちを利用しようとするのは最低な考えだとは分かっているけれど、他に方法が思いつかない。
「悪いけど……今のお前とは付き合いたくねぇかな」
返ってきた答えは意外なもので、私は返す言葉が何も出てこなかった。
正直、『いいよ』と言ってもらえると思っていたから。
私が自惚れていただけだったのか。
それとも、私が最低だということを知って嫌だと思ったのか。
「そっか」
カイくんがダメならほかの人に……なんてさすがに最低すぎるか。
「一回、頭冷やせ」
そう言うと、ゆっくりと立ち上がってクラスのみんなで賑わう声が聴こえるバーベキュー場へと戻って行ってしまった。
私は追いかけることもできず、ただ黙って小さくなっていく彼の背中を見つめていた。