辛いことも乗り越えたフリをして、無理やり前を向いて歩いていかないといけないのかな。
私は本当に過去に囚われてしまっているのだろうか。
忘れたくない、なんてわがままなのかな。
もっと、大人にならなきゃいけないのかな。
「陽音ちゃんにもいつかきっと分かる日が来る。だから、もうアイツのことは思い出にしてほしい」
「……っ」
「思い出すだけ辛いだろうし。その気持ちは俺にも良くわかるからさ。……じゃあ、俺はそろそろ行くよ」
言いたいことだけいうと、室さんは切なげに瞳を揺らしたまま、去っていってしまった。
忘れたくないのに、忘れなきゃいけない。
本当は思い出になんてしたくない。
思い出にしてしまったら本当に彼はかえってこない。
それが私は怖いのかもしれない。
でも、いつまでも心配をかけるわけにはいかないことも理解している。
「……大丈夫か?」
「……うん。ごめんね」
そばでずっと私たちの会話を聞いていたカイくん。
こんなときでもなにも聞いてこないカイくんの優しさがひしひしと身に染みて感じる。