どちらもその場から動こうとはせず、ただ黙って果てしなく続く青を眺め、潮の匂いを感じながら、時折吹く風が頬を撫でて、髪をゆらりと揺らす。
無言でも全然気まずくないのはきっとカイくんだからだ。
「……陽音ちゃん?」
突然、名前を呼ばれて弾けたように顔を上げた。
名前を呼ばれたからだけじゃない、その声には聞き覚えがあったから。
顔を上げて視線がぶつかったのはやっぱりわたしが頭の中で思い浮かべていた彼だった。
「……室さん」
こんがりと焼けた肌、黒髪の短髪。笑うとえくぼができる爽やかなルックス。
彼は渉くんとすごく仲が良かった先輩で二人は職場も同じだった。
「久しぶりだね」
隣にいたカイくんは気を遣ってくれたのか、黙ったままこの状況を見ていた。
きっと、普通の再会ではありえないほどの重苦しい雰囲気は感じていると思う。
「……お久しぶりです」
返す言葉がなかなか見つからず、とりあえず当たり障りのない言葉を発した。
だって、もう会うことなんてないと思っていたから。
「そちらは……」