自分で言うのもなんだけれど、彼に対する私の対応は最悪だと思う。
それなのにどうして離れていかずにいつも寄り添ってくれるのかがわからない。


「やっぱ、ダメ?」

「いや……いいけど……」


“ハル“と呼ばれた時、正直ドクンと胸が甘く高鳴った。

誰にも呼ばれたことのない呼び方。

渉くんはいつも“陽音”と呼び捨てだったから。

彼は柔らかく優しい声で私の名前を呼んでは、からかったり、頭をそっと撫でてくれた。

その時間が本当に幸せで……大好きだった。

時間は戻らない。
過ぎゆくものだけど、私の中の時計は未だにあの日から動いていない。動けるはずがない。

だって、動かす力すら、今の私には残っていないのだから。


「んじゃあ、改めてよろしくな。ハル」

「うん……ってよろしくなんてしないし」

「意地っ張りだなぁ。あ、俺は快人だから“カイ”とかどう?」


なんて、おどけたようにへにゃりと笑いながら言った滝沢くん。

彼はどんなに冷たくしても笑顔で私に接してくれる本当に優しい人。

だけど、その優しさは私には必要ない。
優しさなんて求めちゃいけないんだから。


「呼ばない。あんたの名前なんて」

「ひっでぇな。ほら二文字くらい言えよ」

「言わないってば!」